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全額支給 広島は認めず 在米被爆者訴訟 地裁判決 「医療は国内が前提」

 国外居住を理由に、国が被爆者援護法に基づく医療費の全額支給をしないのは違法な差別だとして、在米被爆者13人が広島県と国を相手取り、支給申請を却下した県の処分の取り消しや損害賠償を求めた訴訟の判決が17日、広島地裁であった。梅本圭一郎裁判長(小西洋裁判長代読)は「在外被爆者が国外の医療機関で受けた医療は支給対象にならない」と判断し、請求を退けた。

 梅本裁判長は被爆者援護法について「国家補償の性格があり、すべての被爆者に適用されるが、国内でしか援護を受けられない場合もある」と判断。医療費の支給に関しては「国内の医療提供体制を前提に制度設計されており、国外の医療機関では支給の適正性を確保できない」とした上で「在外被爆者は支給の対象外となる」と結論付けた。

 原告は、広島市で被爆して被爆者健康手帳を持つ米国在住の76~86歳の男女13人。米国で糖尿病などの治療を受け、2011~12年に医療費の支給を県に申請したが、国外在住を理由に受理されなかったため、12年3月に提訴していた。原告のうち、米国原爆被爆者協会の遠藤篤会長は14年7月に84歳で亡くなった。

 被爆者援護法は、被爆者の医療費を国が全額負担すると定めるが、国は「在外被爆者は適用外」とし、同法とは別の事業で年30万円を上限に医療費を助成。広島、長崎両県市に支給の実務を委託している。在外被爆者からは国内の被爆者と同じ全額支給を求めるための訴訟が相次いだ。

 13年10月の大阪地裁判決は「規定を国内限定と解釈する必然性はない」として支給を認め、14年6月の大阪高裁判決も一審判決を支持した。一方で、長崎地裁は14年3月に「支給の適正性を確保するために指定医療機関での受診を原則としており、海外の医療機関は適用外」と支給を認めない判決を言い渡し、司法の判断は分かれていた。

 広島地裁の判決後、原告の弁護団は控訴する方針を示した。厚生労働省と湯崎英彦知事は「詳細は承知していないが、主張が認められたと受け止めている」とのコメントを出した。(根石大輔)

在外被爆者の援護策
 在外被爆者が日本政府の援護策を受けるためには、かつては来日する必要があった。しかし国は訴訟での敗訴が相次ぎ、2005年から海外でも健康管理手当を受給でき、08年からは来日しなくても被爆者健康手帳を申請できるようにした。医療費については上限額のある助成制度を04年度に創設。国敗訴となった13年の大阪地裁判決を受け、14年度からは上限額を年約18万円から約30万円に引き上げた。在外被爆者は14年3月末時点で約4440人。韓国の約3050人が最多で米国約980人、ブラジル約150人と続く。

(2015年6月18日朝刊掲載)

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