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「差別 引き下がれぬ」 在米被爆者医療費敗訴 老い深くても闘争覚悟

 「がっかり…」「差別を容認する判決だ」。医療費の全額支給を求める在米被爆者訴訟で広島地裁が原告敗訴の判決を言い渡した17日、原告や弁護団は落胆を隠せず、怒りに声を震わせた。被爆から70年が迫り、被爆者の老いは深い。それでも「引き下がれない」との思いは強く、法廷闘争を続ける覚悟も示した。

 原告の一人、ロサンゼルス在住の森中照子さん(83)は1人暮らしの自宅で一報を受け「なぜ…」と言葉を失った。「もうこの年。願いは聞き入れてくれないんですね。納得できない」。判決言い渡しを控えたここ数日、血圧が上がりストレスも高まっていたという。

 米国生まれだが、戦時中は父母やきょうだいと広島県安芸郡で暮らし、現在の広島市南区にあった広島女子商に通っていた。70年前のあの日は、頭痛で学校を休んで無事だったが、3日後に学校に行き、入市被爆した。18歳だった1950年に米国に戻り、77年に被爆者健康手帳を取得した。甲状腺機能低下症や骨粗しょう症を患い、2年前から白内障にも苦しむ。日本の被爆者と違い、全額免除されない医療費が生活を圧迫する。

 森中さんは昨年11月、車いすで来日。法廷で意見を陳述し、差別解消を訴えた。「原告みんなの思いを背負って行った。届かなかった」。年齢的に来日はもう厳しいとも思う。それでも「引き下がれない」。

 判決後、広島市中区の広島弁護士会館であった原告側の記者会見。高齢や健康上の理由で原告の姿はなく、弁護団が控訴する意向を示した。足立修一弁護士は「日本と海外の被爆者の差別を正面から容認する判決」と批判した。

 在外被爆者への支援は、裁判を起こし、勝訴を積み重ねて拡充された歴史がある。医療費の全額支給は「最後に残る壁」だ。長崎訴訟に携わる在外被爆者支援連絡会の共同代表平野伸人さん(68)は「被爆70年を前に非人道的判決。歴史的な被爆者援護の後退だ」と語気を強めた。(胡子洋)

(2015年6月18日朝刊掲載)

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