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社説・コラム

社説 G7外相会合 被爆地開催実現しよう

 来年の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合を、被爆地の広島市で開催する方向で政府が調整していることが分かった。

 広島市は首脳会議の開催地にも名乗りを上げていたが、残念ながら選に漏れた。過去5回の日本でのサミットで広島で閣僚会合が開かれたことはない。実現すれば画期的といえる。

 2008年に開かれた主要国の議長サミットに続き、核兵器廃絶の願いを世界へ届ける絶好の機会となろう。1発の核兵器がどれほど惨劇をもたらしたのか。先進国の外交責任者が、その実態に直接触れることになれば意義は極めて大きい。

 政府は8月前後に他の閣僚会合も含めて開催地を決める方針のようだ。関係国の意向など不確定な要素も残っているのかもしれない。日本政府は十分に調整を重ね、広島での外相会合の実現にこぎつけてほしい。

 地元の期待も高まっている。広島市の松井一実市長、広島県の湯崎英彦知事らはきのう岸田文雄外相に開催を要請した。市長によると、外相は「要請に来ていただいたことを非常に評価する」と述べたという。前向きな姿勢とも受け取れる。

 世界の指導者の被爆地訪問をめぐっては日本政府が今春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で求めたが、核保有国の中国の反対もあって実現しなかった。いま日本政府に外相会合を被爆地で開く動きが出ているのは、核軍縮・不拡散に取り組む姿勢を国内外にアピールする狙いからでもあろう。

 ドイツで開かれた先進7カ国(G7)首脳会議の主なテーマは中国の海洋進出、ウクライナ問題、「イスラム国」などだった。来年の外相会合でもおそらく同様の議題が想定されよう。

 しかし来年はそれだけで十分とはいえまい。世界の核兵器は約1万6千発。東西冷戦時代より大きく減ったとはいえ、地球を破滅させるのに十分すぎる。しかもロシアは新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基を追加配備する計画を発表したばかりで米国との緊張が再び高まりつつある。中国、インド、パキスタンでも核兵器に自国の安全保障を頼る姿勢が強まる。

 その一方で核兵器の脅威が国際社会に十分に伝わっているとは言い難い。70年前の原爆で、あまたの人が炎に焼かれ、大切な家族や子どもが奪われた。放射線を浴びせられ、多くの人たちが今なお苦しみ続けている。

 だからこそ外相会合の広島開催に踏み切るべきではないか。被爆国で開く以上、核軍縮・核不拡散に加え、NPT再検討会議で議論が深まらなかった核兵器廃絶への道のりを話し合う場にすべきだ。首脳会議に議論をつなぐ役割も重い。

 外相たちには原爆資料館に足を運び、被爆者の証言に耳を傾けてほしい。原爆ドームの前に立ち、この地で起きた惨劇を想像してもらいたい。それにより「核兵器を二度と使わせてはならない」との認識が胸に染み入るに違いない。

 外相会合の開催がサミットに合わせた各国首脳の被爆地訪問に結びつくことも期待できる。特に原爆投下国・米国のオバマ大統領である。6年前にプラハ演説で掲げた「核のない世界」への糸口になるはずだ。日本政府も働きかけてもらいたい。

(2015年6月19日朝刊掲載)

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