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社説・コラム

『潮流』 基地で食う?

■論説委員・平井敦子

 その小高い丘に上ると、目の前に明るいブルーの海が広がった。先週訪れた、沖縄県名護市の辺野古。新しい基地建設に向けた埋め立てのボーリング調査の機材が見える。オレンジ色の丸い浮き(フロート)をつないだラインによって、500ヘクタール以上のかなり広い区域の立ち入りを制限している。

 眺めていると、民間の船が1隻、ラインを突破して中に入っていった。基地建設への抗議活動だ。ラインの内側で待つ警備の船がすぐ近づき、外に追い立てていく。

 一緒に丘に上った地元紙の記者は、まったく驚かない。オレンジの壁ぎわの攻防は、日々繰り返されているから。記者たちは昨夏から毎日、現場に張り付き、その一部始終を記録し、発信している。「そうでもしないと、沖縄の抗議が消し去られてしまいそうな気がして」。そんな危機感があるという。

 今回は、全国の地方紙の論説委員たちと勉強のために訪れた。「新基地NO」の抗議が、政府にも本土にも届かない―。あちこちで、もどかしさが充満していた。私たちに翁長雄志(おながたけし)知事は、こう切り出した。「一つだけ分かってほしい。沖縄は基地で食ってるんじゃない」と。

 本土の人と話すときに一番困るのが「でも基地で食べてるんでしょう」という反応という。知事は反論する。基地の跡地を開発した方が、税収も雇用も生まれる。いまや米軍基地は、沖縄発展の最大の阻害要因なんだ、と。「短い時間で反論してもうまく伝わらず、気まずい思いをする。いつもこの『壁』にぶつかるんですよ」と打ち明ける。

 沖縄戦終結から23日で70年。イデオロギーを超えた「オール沖縄」で辺野古の基地建設に反対している。壁は、果たして政府なのか、本土の私たちの無理解なのか。重い問いを突き付けられたように感じている。

(2015年6月20日朝刊掲載)

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