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社説・コラム

天風録 「海渡る人々」

 「とても光栄です」。感慨深げに夫が言えば、妻は「見せびらかしたいわ」と、ちゃめっ気たっぷり。卒寿になる日系のカイハラ夫妻はむつまじい笑みを見せた。72年の時を経てハイスクール卒業の証書を贈られた▲移民2世だろう。カリフォルニアの同じ高校に通ったが、真珠湾攻撃の半年後に強制収容所へ。3年を過ごした。時は移り、孫と臨んだ授与式。柔和な顔だが、しわには収容所の日々や戦後の苦労も刻まれているはず▲西海岸やハワイ、南米などで、今や「ニッケイ」はしっかりと根を張っている。広島県や周防大島などからも大勢が海を渡っていった。1世がなめた辛酸を肥やしに、続く2世や3世が努力を重ね、地歩を固めてきた▲新天地を求めて海渡る人は今も。その中で命からがら密航したのに寄る辺なく、さまよう姿は痛ましい。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ。ミャンマーの迫害を逃れたが、受け入れ国がない。どの顔も苦悩にゆがむ▲国連「世界難民の日」のおととい、東京で支援を訴えるデモがあった。まずは安住の地を。周辺の国々は手を差し伸べて、迎え入れてもらいたい。時がたてば、きっと善き同胞、隣人となるに違いないから。

(2015年6月22日朝刊掲載)

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