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社説・コラム

どう見る安保関連法案 山下三郎・元廿日市市長 平和揺るがす政治反対

 平和な暮らしを守るのが政治の役割だ。集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法案は米国との同盟関係を強めるが、それは同時に、米国の始めた戦争に巻き込まれる可能性が高まることを意味する。この法案で日本の安全は揺らぐ。絶対に反対だ。

右傾化する日本

 15歳だった8月6日、爆心地から約3キロの現広島市西区にあった工場で被爆した。25歳で広島県旧宮内村議に初当選。廿日市市議などを経て、1991年から4期16年、市長を務めた。

 あの日、光が走ったかと思うと、ドンと大きな音がして工場の屋根が浮いた。自分にけがはなかったが、市中心部から逃げる何千もの人々を見た。皮膚が体から垂れ下がり、表情も分からない。もう誰にもこんな経験をさせてはいけないという思いが私の原点だ。

 今、日本は右傾化している。韓国との領土問題にしても、平然と「攻撃してやれ」と声が上がる。言葉は勇ましいが、その先、自分たちにどんな現実が起こるのか見えていない。原爆が落とされるまでは、みんな「日本が勝つ」と信じていた。あの頃に似てきている。このムードが法案提出を可能にしてしまった。

 法案は、他国への攻撃であっても、日本の存立を脅かす明白な危険がある「存立危機事態」であれば武力行使ができるとする。政府は、万が一の自衛の措置を十分にしておくことで、日本が戦争に巻き込まれるリスクも減ると説く。

国民 議論深めて

 「存立危機事態」の定義はあいまいだ。例えば「世界の警察官」として活動を広げる米国は、すぐに日本に支援を要求してくるだろう。そんな時、この文言が断る根拠になるとは思えない。安倍晋三首相は米国議会の演説で法案の今夏成立を約束するなど、米国にすり寄っている。リスクが減るという説明は詭弁(きべん)だ。

 何より、原爆を落とされ、戦争の悲惨さを知る日本は、武力以外の方法で世界の平和をリードする使命がある。私は市長時代の2005年、米・ニューヨークであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議で世界各地の市長に被爆体験を証言した。大きな拍手を受け、困難でも分かり合える道があると確信した。

 政府は今、数の力で法案を押し切ろうとしているようだ。国の方向性を大きく転換する一大事に、あまりに拙速。国民はムードに流されず、議論を深めてほしい。特に次世代の平和を担う若者に期待している。(新谷枝里子)

(2015年6月23日朝刊掲載)

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