×

社説・コラム

天風録 「みるく世がやゆら」

 「父母の死にたりという壕に来て赤き土黒き土起してかへる」(照屋寛善)。南の島であったむごい地上戦から70年が過ぎた。お年寄りから幼子まで巻き込んだ地獄絵。その記憶と、約74%の米軍専用施設を抱える沖縄で、きのう慰霊の日▲犠牲者を悼み、式典で数々の言葉が語られた。基地負担は国民全体で―。知事の宣言に、首相は負担軽減を口にしたが「辺野古」は触れずじまい。県民はどう聞いたか。いまだ弔われず地中に眠る人は何を思うだろう▲「遺骨掘らむ人らの群に朝光は眩(まぶ)しかりけり摩文仁野の原」(新垣秀雄)。今なお、壕を掘るボランティアが汗を流す。年100柱を超す遺骨が見つかるという。DNA鑑定で家族の元に帰せるよう、法整備も訴える▲みるく世(ゆ)がやゆら―。印象的な言葉を繰り返す詩を、高校生が朗読した。夫の遺骨も見つからぬ大伯母に心寄せ、戦争の悲しみをうたう。みるく世は「弥勒世(みろくよ)」なのだろう。「平和でしょうか」と問う詩にどう答える▲島言葉や風土には五七調より八音がなじむのかもしれない。「八八八六」で詠む琉歌という詩もある。みるく世がやゆら。口にしてみると、柔らかに響くが、本土の私たちには苦い。

(2015年6月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ