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森喬以の研究書原版 被爆死のプランクトン学者 広島大総合博物館発見

 広島への原爆投下で亡くなった動物プランクトン研究者森喬以(たかもち)(1902~45年)の著作の亜鉛凸版76枚が、広島大総合博物館(東広島市)の調査で見つかった。世界の研究者も認める37年出版の「日本近海の浮遊橈脚(カイアシ)類」の図版ページの原版で、原爆で焼失したと考えられていた。森の情熱の証しが被爆70年のことし出てきたことについて、関係者は「何という巡り合わせ」と驚いている。

 著作は150ページで、カイアシ類175種の分類や特徴を英文で簡潔に記している。広島大大学院の大塚攻(すすむ)教授(55)の説明では、昭和一桁から昭和30年代生まれの日本の動物プランクトン研究者は必ず手にした一冊。森の業績について世界の著名研究者も高く評価、3人が新種に森の名を冠するなど敬意を払っている。

 総合博物館の調査によると、森は広島県平良村(現廿日市市)生まれ。広島市商業学校(現市立広島商高)の教員になり、8月6日は生徒を引率していて被爆し亡くなった。

 森は大学には進まず、専門教育も受けていない在野の研究者。広島県水産試験場に勤める友人の協力も得ながら分類学的研究に情熱を注いだ。大塚教授は「当時としては最高レベルの研究。独学で自分の研究成果を世界に発信しようとした気概に驚く」と話す。

 亜鉛凸版は1月、三次市三和町の佐藤月二広島大名誉教授(1909~88年)の実家で見つかった。戦争が激しくなり、森が広島市南区比治山町の長性院に預け、その後、広島文理大卒の檀家(だんか)の手を経て78年に佐藤名誉教授に贈られたとみられるという。

 凸版76枚はいずれも縦約18センチ、横約12センチ。保存状態も良好という。総合博物館で常設展示している。日、月曜は休館。(金山努)

カイアシ類
 微小な甲殻類。多くは体長0・5~10ミリ程度だが、寄生性種の中には30センチくらいになる種類もいる。胸脚をボートの橈(かい)のように使って海中を遊泳することから「橈脚(カイアシ)類」の名前が付いた。約1万2千種が知られているが、未知種が膨大にいると推測されている。浮遊性種が多数存在するが、他の無脊椎動物・脊椎動物に寄生したり共生したりする種類もいる。

(2015年6月24日朝刊掲載)

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