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社説・コラム

社説 国会大幅延長 強引な審議は許されぬ

 長い国会の歴史でも異例の事態である。きょう会期末だった通常国会が9月27日まで95日間も延長されることになった。

 通常国会の延長幅としては最長であり、多くの野党の反対を押し切った格好だ。最大の焦点である安全保障関連法案を、何が何でも通したいという現政権の姿勢の表れだろう。

 しかし衆院での審議は現時点では与党が採決までの目安としていた80時間に遠く及ばず、採決のめどは立たない。法案そのものの違憲性も問われている。大幅延長は審議が行き詰まり、政府・与党が追い込まれた裏返しともいえる。その現実を度外視し、審議日数さえ確保すればいいという発想なら問題だ。

 むろん5月の法案提出の段階でも一定の会期延長は想定されていた。安倍晋三首相にしても8月上旬まで延ばせば、安保法案は参院でも十分可決できると踏んでいた節がある。

 終戦の日を前に国会を閉じ、戦後70年の「安倍談話」への野党からの批判を避けたい思惑もあったようだ。あえて談話を閣議決定はせず「個人的見解」にとどめる案が浮上したことには大幅延長を踏まえ、審議への影響を抑える狙いもありそうだ。

 さらにいえば余裕で臨むはずだった9月の自民党総裁選も会期中と重なり、無投票再選を前提にしなければ国会どころではなくなる。シナリオが狂い始めた安倍政権としては今後、綱渡りの国会運営を迫られよう。

 かといって肝心の法案の成立を焦り、強引に前に進めることは許されない。きのう政府側から「国民の理解を得られるよう審議を尽くしたい」との声も出たが、どこまで本心か。参院で議決ができない場合、衆院で再可決できる「60日ルール」は当然、念頭に置いていよう。

 国民が求めているのは、採決ありきの拙速な国会戦術ではない。国の行く末を左右する法案が、平和憲法と照らしてどうなのか。根源的な疑問に対する誠実な答えではないか。

 法案がよって立つのは、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更である。その違憲性を憲法学者たちが国会の内外で指摘したのに加え、おととい衆院特別委員会で「憲法の番人」だった内閣法制局の元長官2人が法案を厳しく批判した。

 国民の不安は募るのに政府・与党は正面から向き合おうとしていない。このままあいまいな答弁を繰り返して野党に時間ばかり費やさせ、揚げ句に強引に採決するのなら許しがたい。

 本来なら会期延長せず、廃案にしてもおかしくない。ただ延長が決まった以上、野党には法案の問題点を一から洗い出す粘り強い姿勢が求められよう。

 政府・与党は維新の党からの「対案」が出れば修正協議に応じ、採決への環境を整える意向という。ただ維新は会期延長には反対し、少し距離を置いて様子見をしているようだ。一つ言えるのは従来の維新のスタンスで修正したとしても、現法案に一定に沿う「歯止め」の強化はあっても違憲の恐れという本質論が置き去りにされかねないことだ。それでいいと思えない。

 そもそも政府が満を持して提出した法案を安易に修正すること自体、ずさんさを認めたことにならないか。この3カ月、徹底審議したとしても「白紙に戻す」しか結論はないはずだ。

(2015年6月24日朝刊掲載)

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