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命と向き合う3画家の軌跡 「ヒロシマ70」-広島で特別展

 広島を拠点に、それぞれのスタイルで被爆体験や生命を表現してきた3画家の特別展「ヒロシマ70 入野忠芳・香川龍介・田谷行平/入野忠芳の遺作とともに」が、広島市西区の泉美術館で開かれている。一昨年、亡くなった入野さんが残した作品を中心に据え、香川さんと田谷さんの新作を合わせた51点が並ぶ。被爆から70年を迎えるいま、生きることの重みに、あらためて向き合おうと促されるようだ。(森田裕美)

 広島で生まれ育ち、ともに抽象表現で知られる3人は、被爆50年の1995年に広島県内6会場で「ヒロシマ50」展を、2005年には「ヒロシマ60―消失と生成」展を広島市で開いたメンバー。節目の年に新作を携え、それぞれの「ヒロシマ後」を見詰める試みを続けてきた。今回は13年に73歳で亡くなった入野さんの回顧展でもある。

 入野作品は、75年に始まり、現代日本美術展大賞を受賞した「裂(れっ)罅(か)」シリーズをはじめ、29点が出展されている。5歳の時、左手を失う事故と被爆を体験した入野さん。「けがや被爆を乗り越えた強さや気迫があったから、これだけの絵が描けた。自分で自分を追い込んだ人だった」。会場での講演会で、中国新聞社の元記者として入野さんをよく知る寺本泰輔・前呉市立美術館館長は評した。

 「裂罅」シリーズは、ひび割れ、引き裂かれる球体。戦争や一発の原爆が、生身の人間の身体や心にもたらした、語り尽くせぬ傷口を目の当たりにしている感覚になる。圧縮空気を用いて油絵の具をのばす手法で、無数の人間がうごめいているような小宇宙を生む「風成」シリーズは、きのこ雲の下の群像にも、傷ついた肉体や細胞にも見える。代表作には何度見ても胸をわしづかみにする力がある。

 入野さんが自らの被爆体験を題材にした絵本「もえたじゃがいも」の原画、晩年に被爆樹木を描いた墨彩画、絶筆となった「精霊」も並ぶ。どの作品からも、強い痛みと同時にそれに打ち勝とうとする生命力が伝わってくる。

 83歳の香川さんは、多彩な色と形で生きる喜びを表現する「work2015―3」など14点。「自分が絵を支配しようとしてはいけない。絵に導かれるように描く」という。軍人として戦死した父が、「私の50年は、なんだったんだろう」と記した手記と出合い、「いかに生きたらいいかを問い、絵との向き合い方が変わった」と紹介した。

 「ふるさとの川」「agape」など深い黒の世界に、記憶や祈りを託す田谷さんは、3歳の時に被爆した。本展には8点を出品。「絵を創ることは、考えること。内にある生命の輝きを伝えられるよう制作している」と語っていた。

 7月12日まで。同館と中国新聞社の主催。月曜休館。

(2015年6月24日朝刊掲載)

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