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社説・コラム

どう見る安保関連法案 森本敏・元防衛相 新3要件の設定に意義 「リスク高まる」 筋違い

 現在の日米同盟は、健全な関係ではない。日本が攻められたら米国が守ってくれるが、米国が攻められても日本は守る義務がなく、片務的だ。安全保障関連法案を成立させ、この片務性を少しでも解消したいという問題意識が安倍晋三首相にはあるのだろう。フルセットの集団的自衛権は、憲法上の制約で行使できない。しかし、新3要件を満たせば武力行使できるという概念を新しく設定したことに意義がある。

戦前のトラウマ

 航空自衛隊、外務省などを経て、2012年、民主党政権で民間人初の防衛相として入閣した。現在は拓殖大特任教授を務める。

 自衛隊による他国軍の後方支援が、特別措置法をつくらなくても可能になるのも大きい。平時から態勢を整備したり、訓練したりできるようになる。国連安保理決議に基づいて他国軍が出動しているのに、日本だけが遅れて行く状況が変わる。今のままでは日本は主要国としてリーダーシップを発揮できない。

 日本人にはまだ戦前のトラウマがあり、武器を持って海外に出ると戦争に行くのだと考える。「他国の戦争に巻き込まれる」との主張があるが、戦闘地域では活動しないと法案に明記されている。自衛隊による22年間の国連平和維持活動(PKO)を振り返ってほしい。戦死者は一人も出ていない。

 自衛隊員のリスクが高まるとの指摘も筋違いだ。リスク管理こそが重要。現場の指揮官は無能ではない。部隊行動基準やマニュアルを見直し、装備を整えていけば、低いリスクの中で活動できるようになる。そのためにも恒久法の制定が必要になる。

具体例で説明を

 共同通信社が20、21の両日に実施した全国電話世論調査では、安倍政権が安保関連法案について「十分に説明しているとは思わない」との回答が84・0%に上った。

 武力行使の新3要件で示した「存立危機事態」などの造語で説明しても、国民は理解できない。国会審議では、もっと具体的な事例を挙げて、日本ができること、できないことを分かりやすく説明する必要がある。質問する側も、憲法解釈上の問題をぎりぎり詰めようとするが、同じく国民には理解できないだろう。

 ただ、民主党などが主張する個別的自衛権の拡大解釈だけは駄目だ。そんなことを認めていたら、世界中の国が海外に出て行く。先の大戦で、日本は個別的自衛権だと言ってアジアへ出て行った。絶対にやってはいけない。(藤村潤平)

武力行使の新3要件
 政府が憲法9条の下で禁じてきた集団的自衛権の行使を認めるため、従来の「自衛権発動3要件」に替わり、昨年7月に閣議決定した。①日本や密接な関係の他国へ武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)②存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない③必要最小限度の実力行使にとどまる―場合に武力行使できるとする。

(2015年6月25日朝刊掲載)

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