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社説・コラム

社説 広島で外相会合 被爆国の使命問われる

 来年の主要国首脳会議(サミット)に先立つ外相会合は広島市で開かれることが決まった。

 地元の念願だったサミット開催こそかなわなかったものの、被爆地を各国の外相が訪れることは意義深い。原爆を投下した米国の国務長官が広島を訪問するのは初めてのことだ。さらに同じ核保有国である英国、フランスの外相も集う。

 「広島は世界の平和、繁栄、未来への希望を発信する場としてふさわしい」と岸田文雄外相はきのう強調した。核兵器が何をもたらしたか。各国、とりわけ核保有国の外相たちには正面から向き合ってもらいたい。

 被爆地からすれば、廃絶へのプロセスを前に進める場に位置付けたいところだ。広島市の松井一実市長も各国代表への注文として「被爆の実相に触れ、核兵器廃絶への揺るぎない決意を固めてほしい」と語った。

 そのために積極的に地元から働き掛けたい。原爆慰霊碑への献花や原爆資料館の見学は言うまでもない。被爆者から直接証言を聞く場のほか、被爆体験継承を担う世代との交流などを積極的に提案したらどうか。

 加えて5月26、27日に決定した伊勢志摩サミットに集うオバマ米大統領ら各国首脳が広島に足を延ばすよう、粘り強く呼び掛け、実現させたい。

 むろん会合の中身も問われよう。外相会合で議題になるのは国際社会の喫緊の課題である。仮に被爆地で開催しなくても、核の問題は避けて通れまい。このところ米ロの核軍縮の機運が消え、憂慮すべき局面にさしかかっているからだ。

 ロシアのプーチン大統領が先週、核戦力強化の意思を鮮明にした。大陸間弾道ミサイルを40基以上、年内に追加配備するというのだ。さらに「脅威となる国には最新鋭の攻撃兵器で照準を合わせるほかない」とも語っている。核をちらつかせ、北大西洋条約機構(NATO)を威嚇するのは許し難い。

 ロシアこそ被爆地で原爆がもたらした惨状に学ぶべきだろう。オブザーバー参加など形はどうあれ、外相会合へのロシア外相の招請を日本が働き掛けるべきではないか。

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終文書を採択できず、決裂してしまった。国際社会には核廃絶への悲観論も出ていよう。だからこそ広島の地で実りある議論を深めるべきであり、核の問題を素通りするなら被爆地で開く意味は薄い。

 日本政府からすれば再検討会議で提案した世界の指導者らの被爆地訪問を一定に実現させたことになろう。しかし、これだけで満足してはならない。向こう1年、核廃絶に向けてどう取り組み、被爆国としての使命と役割を果たすかが問われる。

 非保有国に機運が高まる核兵器禁止条約の締結についても、日本はこれまで消極的な構えを崩していない。核廃絶を掲げつつ、米国の「核の傘」に依存し続ける姿勢を鮮明にしているのも説得力を欠いている。

 被爆70年の平和記念式典には安倍晋三首相は例年通り、参列するとみられる。昨年は前年の文面と半分以上が同じあいさつ文を読み上げ、やる気はあるのかと批判を浴びた。形ばかりの文言など、もう要らない。被爆国のリーダーにふさわしい踏み込んだ決意を求めたい。

(2015年6月27日朝刊掲載)

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