×

社説・コラム

社説 自民勉強会問題 言論封じる姿勢許せぬ

 報道と言論の自由をあからさまに脅かす発言が、政権与党の勉強会で堂々と出たことに強い危機感を覚える。

 自民党の中堅・若手議員で発足した「文化芸術懇話会」だ。初会合で安全保障関連法案への反対意見を唱える報道機関に対する批判が噴き出し、圧力をかけて封じ込めようとする声が上がったという。「マスコミをこらしめるためには広告収入がなくなることが一番」とした上で経団連に働き掛けよう、とも。

 安保法案の衆院審議が前に進まないことに焦り、メディアに責任を転嫁したくなったのかもしれないが、筋違いどころか悪質極まりない暴論である。

 そればかりではない。辺野古沖への米軍基地建設に強く反対する沖縄のメディアについて、議員の一人が「左翼勢力に乗っ取られている」と偏見に満ちた発言をした。講師に招かれた作家百田尚樹氏も「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と述べた。後で「冗談として言った」と弁明したが、事の重大さをどこまで分かっていよう。

 政府・与党のチェックは報道機関の責任であり、権利でもある。それを強引に封じればどうなるか。国民に正しい情報が知らされず、悲惨な結果を招いた戦争の教訓からも明らかだ。

 野党からの猛反発を受けて自民党も慌てたに違いない。勉強会代表を務める木原稔青年局長を1年間の役職停止処分とし、問題発言をした3議員は厳重注意にするとした。

 国会会期を大幅延長したのに成立が見通せない安保法案へのさらなる影響を回避する思惑があるのだろう。しかし、これで幕引きできる話とは思えない。安倍政権全体の「おごり」と、異論に真摯(しんし)に耳を傾けない姿勢の表れとも考えられるからだ。

 安保法案の審議で野党議員に向かって首相自ら「早く質問しろよ」とやじを飛ばしたこと。多くの憲法学者による、集団的自衛権の行使容認は違憲とする指摘を黙殺しようとすること。今回のさまざまな発言と重ね合わせる人は少なくなかろう。

 そもそも勉強会には安倍カラーが強い。9月の党総裁選で、首相の再選を後押しする意味合いもあるとみられる。初会合には、首相側近の加藤勝信官房副長官や萩生田光一自民党総裁特別補佐も出席していた。

 首相自身もおとといの国会で追及されたが、報道の自由は尊重すると強調した上で「私的な勉強会」とひとごとのように言い逃れた。公人の国会議員が、党本部で開いた会合のはずだ。谷垣禎一幹事長がきのうになって「党に対する国民の信頼を大きく損なうもの」と認めた重みを首相も受け止めるべきだ。

 対メディアだけではない。この勉強会と同じ日にリベラル派の議員らも勉強会を開こうとして党幹部から待ったがかかったという。集団的自衛権をめぐる憲法解釈変更に批判的な漫画家小林よしのり氏を招く予定だった。党内議論の「封殺」ではないか。以前の自民党ならもっとバランス感覚があったはずだ。

 自由に報道し、活発に意見を戦わせるのが民主主義の基本である。そして厳しい批判を正面から浴びるのも、時の政権の責任ではないのか。思うままにならないから異論を封じようというなら、最初からまともな政策ではなかったということだ。

(2015年6月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ