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社説・コラム

『書評』 マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きる 竹峰誠一郎著 ヒバクシャ 苦難や怒り

 1954年3月1日、太平洋のマーシャル諸島住民、周辺海域にいた日本の第五福竜丸を含む多くの漁船、そして米兵が、ビキニ環礁における米水爆実験によって被災した。それから50年に当たる2004年、「グローバルヒバクシャ研究会」が発足した。著者はその共同代表として世界の核被害者のための研究、活動をつなぐ役割を担いながら、学究を深めた。その成果が本書に反映されている。

 著者は、先駆者のジャーナリストたちがそうしてきたようにマーシャル諸島の被災者の証言を集める一方で、近年公開された米核実験関連資料を丹念に収集・分析し、被災者の被曝(ひばく)状況を裏付けている。米国が公的に核実験被害を認めてきたのはロンゲラップやウトリックなど4環礁だが、これまで汚染地域とはされていなかったアイルック環礁は、著者の入手した米側資料によって、実際は放射性降下物の範囲内であったことが実証された。アイルック環礁の人々の被曝は隠蔽(いんぺい)されてきたのである。

 被曝によって病気になった苦しみ、汚染された故郷に帰りたくても帰れない悲しみ、居住者への影響を無視して行われた核実験への怒り、救済どころか「放射性降下物の人体への影響」の研究対象にされた不条理さ…。著者は大学生だった98年から長年にわたり、マーシャル諸島の人々と交流してきた。その心のひだに分け入るようにして貴重な証言を集め、本書でじっくり紹介している。

 マーシャル諸島はかつて日本の統治下に置かれ、第2次世界大戦に巻き込まれた。46年の米原爆実験をはじめ、ビキニ水爆以前から核実験場として戦争の準備に利用され続けた。この人口5万人余りの国は昨年4月、核兵器保有国を「軍縮義務に違反している」として国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。本書は、もう二度と戦争を起こさせず、核を使用させないために、マーシャルの人々とともに歩むための一冊である。(高橋博子・広島市立大広島平和研究所講師)

新泉社・2808円

(2015年6月28日朝刊掲載)

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