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社説・コラム

天風録 「空襲と供養地蔵」

 呉市の目抜き通りから程近い。小さな公園にある供養地蔵にそっと手を合わせた。70年前の7月1日夜から翌日未明―。米軍の市街地爆撃で命を落とした住民のために建立された。この一帯の阿鼻(あび)叫喚を思うと胸が詰まる▲かつて巨大な防空壕(ごう)がそばにあった。空襲警報を聞いて逃げ込んだものの焼夷(しょうい)弾による火災の煙が流れ込む。550人が蒸し焼きにされたと伝えられる。軍港ゆえに繰り返された呉空襲の中でも際立つ悲劇といえよう▲あの夜壕にいながら命拾いした18歳の少女が宮本澄枝さんだ。戦後に地蔵を置いた父を継ぎ、毎年一人で慰霊の営みを続けた。それも節目のきょう限り。語り継いでほしいと心を残して▲アニメの世界に継承の芽がある。こうの史代さんの漫画を映画化する「この世界の片隅に」の制作が本格化した。戦時下の呉に嫁ぎ、空襲で傷つきながら生き抜く女性の物語。原作は焼夷弾が街を焼く場面も心揺さぶられる。どう再現されるだろう▲監督の片渕須直さんは映画にリアルさを求めて何度も呉を訪ね、お年寄りの聞き取りを重ねたそうだ。地元の若い世代も負けていられまい。「供養地蔵」を置く日が未来の日本に再び来ないように。

(2015年7月1日朝刊掲載)

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