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社説・コラム

『書評』 広島の木に会いにいく 被爆樹木テーマ 戦後復興を記す 石田監督が児童書出版

 東京在住の映画監督石田優子さん(36)が、被爆樹木を題材にしたノンフィクションの児童書「広島の木に会いにいく」を出版した。原爆の惨禍を生き抜き、戦後の復興期に市民に勇気や希望を与えた被爆樹木と向き合いながら、あの日をひもといている。

 東京生まれの石田さんが、被爆樹木に出合ったのは大学3年の時。平和記念公園(広島市中区)の被爆アオギリの前で、故沼田鈴子さんの証言を聞いた。「生きる勇気を与えてくれた」。そんな沼田さんの言葉が胸に強く残った。

 2011年、故中沢啓治さんの被爆証言を記録した映画「はだしのゲンが見たヒロシマ」を製作。撮影後、さらにヒロシマを掘り下げようと、頭に浮かんだのが被爆樹木だった。

 被爆樹木を守り続ける樹木医の堀口力さん(70)の協力を得て、一緒に樹木巡りに出掛けた。平和大通りのムクノキや、広島城のクロガネモチ、縮景園の大イチョウ。それぞれの樹木の被爆状況や現状とともに、その周辺での被爆当時の様子なども紹介している。

 中でも、石田さんの思い入れが強いのが、比治山(南区)の山陽文徳殿にあるソメイヨシノだ。爆心地から1・8キロ。幹が大きく傾き、枝や葉も少ない。衰えて危機的な状況にある木の治療や、その後の様子を長期間追った。「行ってみて、元気が出ているとうれしかった。木にこんな感情を抱くのは不思議な体験」

 今回は、子どもたちにヒロシマを伝えたいと児童書に挑んだ。一方で、同じテーマで映画製作も進めている。

 巻末には、被爆樹木の所在地を示す地図を付けた。「原爆を知らない子どもたちが、この本をきっかけに、いつか広島の被爆樹木を訪ねてみたいと思ってくれたらうれしい」

 240ページ、1944円。偕成社。(石井雄一)

(2015年7月4日朝刊掲載)

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