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あの日の記憶 一人芝居 悲しみ 全身で表現 「伝承者」三嶋さん 広島で初上演

 広島市が育成した「被爆体験伝承者」1期生の主婦三嶋千賀子さん(65)=廿日市市=が4日、被爆者の笠岡貞江さん(82)=西区=のあの日の記憶を題材にした一人芝居を、西区民文化センターで初上演した。高校時代の部活や市民劇団で磨いた演技力を生かした独自の継承のかたち。「平和と愛の大切さを訴えたい」と舞台に立ち続ける。(樋口浩二)

 「この川は、あの生き地獄のことを一つ残らず覚えとるんじゃないだろうか」。三嶋さんが語り始めた。一人芝居「あの日の川の記憶」は、爆心地から約3・5キロの江波町(現中区)で被爆した笠岡さんをモデルに、老婦人が爆心地に近い元安川のほとりで語り掛ける形で進んだ。

 全身黒焦げで自宅に運び込まれた父の口に、大好きなビールを含ませてみとった悲しみ、届けられた遺骨が母本人かどうかも分からなかったむなしさ…。時に大きな身ぶり手ぶりを交え、45分間演じた。

 約70人の観客には涙する姿も。笠岡さんは「全身全霊で体験を受け止めてくれたからこそにじみ出る迫力があった。被爆者の思いはきっと伝わる」と喜んだ。

 三嶋さんは「被爆の実態と向き合ってこなかった」との思いから3年前、伝承者に応募した。今春デビューした男女50人の中でも、芝居で伝えるのは異色だ。

 実は、松江工高(松江市)の定時制で演劇部を旗揚げするほど魅了され、2009年から2年間、中区の市民劇団にも所属した。伝承者を目指すと知った高校の同級生で松江市の「劇団 幻影舞台」代表の清原真さん(66)が芝居化を持ち掛け、三嶋さんが聞き取った1万字に及ぶ体験記を基に脚本を書き上げた。

 この日は、清原さんが松江市教委による「はだしのゲン」の閲覧制限を機に、2年前につくった同名の朗読劇も同時上演した。初演を終えた三嶋さんは「私なりの方法で『ヒロシマ』を伝え、平和な社会に少しでも貢献したい」と語った。

(2015年7月5日朝刊掲載)

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