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社説・コラム

社説 中電の原発記録偽造 再発防止策を徹底せよ

 まさに安全に対する意識の欠如であろう。

 中国電力の島根原子力発電所(松江市鹿島町)で、低レベル放射性廃棄物を処理する機器の点検記録偽造が発覚した。担当者が、過去の書類を切り貼りして監査用の文書を作るなど、悪質で意図的な改ざんである。

 定期点検は、安全を確保するための基本中の基本である。これを怠り、さらに隠蔽(いんぺい)するとは異常事態だ。福島の事故以降、原発に国民から厳しい目が注がれる中、組織として当事者能力に疑問符が付いているといわざるを得ない。

 問題となっているのは、低レベル放射性廃棄物をドラム缶に詰める際に使う水量計の点検記録である。本来なら半年に1度、機器をメーカーに送って調整する必要がある。しかし中電の担当社員は2013年11月以降実施せず、さらに書類も偽造していたという。

 廃棄物を固定するために混ぜるセメントの水量が正しくなければ、青森県六ケ所村にある日本原燃で保管する際、缶が破損して放射性廃棄物が外に漏れ出す可能性がある。そうなれば重大な汚染事故につながる。

 原発は、常にリスクと隣り合わせであり、ささいなミスであっても許されない。この安全意識が社内で浸透していなかったとしたら、問題の根は深い。

 「信頼を裏切って申し訳ない」。中電の苅田知英社長は島根県庁で緊急会見を開き、こう陳謝している。

 だが信頼を取り戻すことは容易ではあるまい。というのも中電は10年にも島根原発1、2号機で500カ所以上の点検漏れを起こしている。また06年には、土用ダム(岡山県新庄村)でダム堤の測量データの改ざんもあった。相次ぐ不正に松江市の松浦正敬市長が「市民の信頼は崩れた」と述べたのはもっともであろう。

 問われているのは組織の体質にほかならない。中電は10年の点検不備以降、発電所内の機器の点検時期や実施状況を一元的に把握するシステムを導入したはずだ。しかし対象は1年ごとに点検する機器で、今回の水量計は対象外だったという。また今回の担当者は実質的に1人で、社内で点検したかどうかを上司に報告するルールすら守られていなかったという。

 「組織的な関与はなかった」と中電はみている。ただ担当者個人の責任に帰結させることは許されない。安全意識が現場で不十分だったのは、企業責任に関わる問題である。

 今後の焦点は、原因の徹底究明と再発防止策に移る。島根県の溝口善兵衛知事は「第三者を入れて調査してもらいたい」と求めている。つまり中電への不信感を示したといえよう。

 中電は重く受け止め、外部の視点を交えて再発防止の具体策を練るべきだ。

 電力業界の経営環境は、激変しつつある。来春からは電力小売りが自由化され、さらに競争が激化する。島根原発2号機の再稼働を急ぎ、さらに新設の3号機の稼働を目指す中電。だが、地元自治体との信頼にひびが入っては計画はいっそう遠のくに違いない。

 中国地方の電力を担う公益企業である。初心に立ち返って根底から企業体質を点検し、改めてもらいたい。

(2015年7月5日朝刊掲載)

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