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「核の恐ろしさ」に迫る ブラジル民放 終戦70年にドキュメンタリー制作 広島で被爆者取材 来月放送

 ブラジルの民放大手、レコードテレビが終戦70年を機に、広島と長崎に投下された原爆の影響について伝えるドキュメンタリー番組を制作している。被爆者の証言などを取材し、8月に放送する。原爆の破壊力や健康被害など核兵器の恐ろしさを視聴者に身近に捉えてもらう。(山本祐司)

 「原爆が落とされた時、どうしていましたか」。広島市西区であった被爆者へのインタビュー。アジア支局(東京)のブラジル人リポーター、シンチア・ゴドイさん(28)が、爆心地から約2・3キロで被爆した増田暁美さん(75)を自宅に訪ね当時の状況を聞く。「70年前を思い出すとどう感じるか」「戦争について思うことは」。質問を重ね、取材は約2時間に及んだ。

 当時5歳だった増田さんはあの日、B29の飛行機雲を庭で見た。泣きだした妹の元へ行こうと、家の中に入ったところで記憶は途切れ、被爆の瞬間は覚えていない。戦後、鼻血や下痢、吐血などの症状が襲った。「おまけの人生の方が長い。よく生かされた」

 ゴドイさんは「明るい態度とは逆に、心に深い傷を負っていると感じた。市民が被害に遭う戦争のむごさを伝えたい」と話す。その後、さらに3人の被爆者を取材。平和記念公園(中区)を見学する小学生にも話を聞き、子どもが平和の大切さを訴える姿に心を動かされた。今月中に長崎でも取材する。

 ブラジルは、厳しい農作業に人々が苦しんだ歴史がある。しかし大きな戦争はなかったため、国民が核兵器の恐怖に触れる機会は少なかった。特に若者は、戦争や核を「無関係なもの」として捉えがちという。

 ゴドイさんには、初めての被爆者取材。「最初は想像することも困難だった被爆体験が、わずかでも分かるようになってきた。日本のように、70年が過ぎても平和を受け継ぎ、他人を思いやる社会をブラジル人は学ぶべきだ」と指摘する。今なお貧富の差が激しく、暴力や殺人が絶えないブラジル社会に向け、訴える。

 同支局のプロデューサー一色崇典さん(40)は「ブラジルでは原爆についてメディアが伝える機会が少なかった。日系人やその友人に番組を見てもらい、核は恐ろしい結果をもたらすという意識を共有するきっかけにしたい」と話している。

(2015年7月6日朝刊掲載)

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