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「多様性と平等」問い掛け 同性婚法制化 人権救済 あす申し立て 広島県は3人 日弁連に

 同性同士の結婚を法的に認めないのは人権侵害に当たるとして、同性愛者をはじめ全国の性的少数者(LGBT)が7日、日弁連に人権救済を申し立てる。申立人は450人を超える見通しだ。広島県内からは実名非公表で3人が立ち上がった。「多様性と平等を重んじる社会への一歩に」と訴える。(金崎由美)

 全国の弁護士や行政書士約80人でつくる「LGBT支援法律家ネットワーク」の有志が弁護団を結成し、1月から申立人を募るなどの準備をしてきた。

 申立書は、性的少数者には相続や税制上の配偶者控除を受ける権利がないなど、結婚できないために数々の法律上、制度上の不利益があると指摘。「法の下の平等」を定めた憲法14条1項に違反するとして、同性婚の法制化を政府と衆参両院に勧告するよう求めている。

「当たり前の人生」

 「結婚する、しない、といった当たり前の人生の選択肢を、他の人たちと同じように持ちたい」。福山市などで性的少数者と支援者が交流する「『かも?』カフェびんご」の主宰者は語る。

 女性として生まれたが、「意識の性別」とのずれに子どもの頃から苦しんだ。だが完全な「男性」でもない。「中性、が最も実感に近い。性別の二者択一にはめられない自分を受け入れるまで、時間がかかった」

 申し立てを決意したのは、年下の恋人との将来を考えたから。「上の世代の頑張りの上に、今の自分たちがいる。若い人が堂々と生きていける社会のため、行動したい」とも語る。

 今春、東京都渋谷区が性的少数者に「パートナーシップ」を書面で認める条例を制定。米国では先月、連邦最高裁が同性婚を憲法上の権利だと認める判決を下した。ホワイトハウスは性的少数者のシンボルカラーである虹色にライトアップされた。

 広島県東部に住む女性カップルは、「次は日本でも」と米国からの報道を感慨深く見守った。レズビアンであることを身内にはほとんど明かしていない。「都会と違い、地方は難しい面がある。でも世論の意識が高まれば、身の回りの理解も進むはず」と申し立てに加わった。実名で自分のことを語れる日が来ることを願う。

勧告に強制力なく

 国内外で「追い風」が吹いているように見えるが、課題はある。日弁連の勧告に強制力はない。「婚姻は、両性の合意のみに基づく」と定めた憲法24条1項を「結婚を男女に限る条文だ」とする見解もある。

 弁護団の大畑泰次郎弁護士(大阪市)は「そもそも、親が結婚相手を決めていた時代から転換し、当事者同士の意思を尊重するためにできた条文だ」と反論。同性婚の法制化の妨げにはならないとする。

 3人の申立人を支援する「法律家ネット」メンバーの野元恵水行政書士(41)=広島市東区=は「同性婚を求める動きは、性的少数者を存在しないかのように扱ってきた社会に重い問いを突き付けている」と強調する。欧州で同性婚をして日本で働く外国人から「パートナーが家族として在留できない以上、日本を出るしかない」と相談を受け、関心を持ち始めたという。

 日本では依然として性的少数者は法律上の格差にとどまらず、差別や偏見、無理解という心のバリアーに直面しているのが現実だろう。だが本当は、テレビのバラエティー番組に出演するタレントだけでなく、身の回りにも必ずいる。電通は4月、約7万人を対象に実施した調査で7・6%が性的少数者に該当したと発表した。13人に1人の割合である。

 同性婚の法制化を求める今回の動きは、国際社会で日本がどこまで人権問題に敏感かを問い掛ける。同時に、身内や友人の人権に関わる問題だ、という気付きを一人一人に求めているのではないか。東京や米国の首都の問題ではなく、自分たちが住む地域社会の問題として考える必要がある。

人権救済申し立て
 弁護士法の規定に基づく人権救済手続き。当事者からの申し立てを受け、日弁連がケースを調査。必要と判断すれば、「警告」「勧告」「要望」などを発する。裁判と違い強制力はないが、簡素な手続きで政府などに問題解決を働き掛け、世論を喚起できる効果が期待できる。ハンセン病元患者の人権回復のため積極的な措置を取るよう政府に勧告した事案など、多数の先例がある。

 同性婚をめぐる国内外の状況 2001年のオランダから始まり、現在は南アフリカ、ブラジル、英国など約20カ国で合法化されている。5月にはアイルランドが国民投票で同性婚を合法化した。

 一方、アフリカや中東では同性愛行為を禁止する国が多く、サウジアラビアなどでは死刑が最高刑。やはり同性婚が認められていない日本では、法的拘束力はないものの同性カップルに「パートナーシップ証明書」を発行する渋谷区の条例ができるなど、新たな動きもある。

(2015年7月6日朝刊掲載)

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