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被爆5年後165の体験記 葉佐井・広島大名誉教授、2年かけ復元

■記者 金崎由美

 被爆者の葉佐井博巳広島大名誉教授(80)=広島市佐伯区=が、被爆5年後に広島市が募集しながら埋もれていた「原爆体験記」の原本165点を電子データで復元した。「被爆の記憶が生々しい時期の貴重な記録。多くの人に読んでほしい」として3日、松井一実市長へデータを手渡す。

 葉佐井さんは2009年春、専門家でつくる原爆資料館(中区)の展示に助言する資料調査研究会で被爆資料を集めた際、体験記の存在を知った。市公文書館が保管する原本のコピーを借り、2年かけてパソコンで入力した。それぞれの被爆場所や当時の職業、家族構成、その日の行動などを簡略にまとめた索引も作った。

 「原爆体験記」は、故浜井信三市長の発案で1950年6~7月に募集。応募作から広島市が18点を選び小冊子にまとめた。当時は占領下のため、配布は関係者などに限られた。

 全165点には、肉親を失った被爆者が原爆を落とした米国に対し「かたきを討ってやる」「こんちくしょう」など怒りの言葉が多く見られる。これらの表現は市が冊子にまとめた際には削られている。占領軍の検閲によるものか、市側の自主規制かは不明だ。

 被爆から間もないこともあり、被爆時の具体的な描写が多い。核兵器廃絶への思いや平和を呼び掛けるような記述は少ない。

 パソコンで入力する作業は、原本の紙が劣化し文字の判読が難しいなど困難を極めた。「生きて完成させなければ」と取り組み、その分量はA4用紙で562枚分になった。

 葉佐井さんは、原爆を知らない次世代が広く読めるよう原爆資料館や図書館に置いたり、インターネット上で公開したりするなど「活用法を市が考えてほしい」と話し、被爆体験の継承を重視する松井市長の判断に期待する。

(2011年8月2日朝刊掲載)

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