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「現場萎縮」懸念の声 安保法案テーマに柳井高で授業 山口県議の批判に県教育長謝罪 「18歳選挙権」取り組みに課題

 安全保障関連法案について生徒が自分たちの意見を発表し、どの意見に説得力があったかを問う模擬投票をした柳井高(柳井市)の授業について、山口県の浅原司教育長が自民党県議の指摘を受け、3日の県議会本会議で授業を問題視し、謝罪する事態となった。「18歳選挙権」に向けた取り組みに水を差す形で、専門家は「教育現場が萎縮し、賛否の割れる課題は取り上げないとの雰囲気が広がらないか心配」と懸念する。(村田拓也、折口慎一郎)

 「国会で審議中のテーマを取り上げたのは適切だったのか」「国防は極めて政治的判断を要する問題」。6日の県議会文教警察委員会でも、自民党議員が授業批判を繰り返した。

 浅原教育長は、政治的中立性の確保策を盛り込んだ有権者教育の指針を作ると説明。同委終了後、「指針を見れば学校でどう教えればいいか分かり、教員は安心できる」と話し、高校生に賛否を問うこと自体に否定的な見解をあらためて示した。傍聴した県高教組の高見英夫委員長は「授業批判は教育への政治介入。県教委には現場を守る姿勢が感じられない」と嘆いた。

 授業は、2年生の現代社会であった。選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公選法改正で、来夏の参院選で有権者となる生徒がいることから政治参加意識を高める狙いで企画された。

 朝日新聞と日本経済新聞の両紙の記事を参考に6月22日、政府与党の見解や野党の主張を学習。同24日、32人が8班に分かれ、それぞれ法案への賛否と理由を表明した。2班は賛成を表明、6班は反対を訴えた。

 法案の賛否でなく、最も説得力のあった意見を選ぶ模擬投票では、「自衛隊が戦争に巻き込まれてからでは遅い。他国を守るのであれば非戦闘地域での食料供給や治療で十分貢献している」と反対を主張した班が最多の11票を集めた。

 授業の様子が報道されると、県議会最大会派の自民党が「偏向教育だ」と反応。今月3日の一般質問で同会派の議員が「政治的な中立性があるのか疑問」と指摘した。浅原教育長は答弁で「多様な資料を提供できておらず、結果として賛否を問う形になり配慮が不足していた。指導も不十分だった」と謝罪した。

 県教委によると、柳井高は生徒に「資料が不十分だった」と説明し、政府や国会の資料を使ったまとめの授業をするという。同高の小林真理校長は「学校としては工夫をした授業をした。いろいろな意見を踏まえ、今後も主権者教育を進める」と話す。

 山口大教育学部の吉川幸男教授(社会科教育)は「1回の授業だけで内容を批判するのは短絡的。教育長は答弁で授業の評価できる点に触れておらず、現場は気の毒」とみる。「原発など賛否の割れる課題を取り上げないという雰囲気が広がると教育実践の発展に良くない」と指摘した。

(2015年7月7日朝刊掲載)

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