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社説・コラム

天風録 「公民教育」

 地域おこしに取り組む現場で「志民(しみん)」の2字をちょくちょく見かける。踏ん張る志なくして何事も始まらぬという心意気なのだろう。くせのない「市民」では飽き足りないのかもしれない▲「公民」ともなれば、なおさらだろう。選挙を通じ、世のため人のために権利と義務を果たす主権者というのが本意である。その公民教育に血を通わせようとした山口県立柳井高の授業が、県議会でやり玉に挙がった▲ホットな時事問題について班ごとに調べ、練った意見を発表し合う。18歳以上が1票を持てる来夏を控え、模擬投票もしたという。選んだ論題が安全保障関連法案だったのが自民党県議の気に障ったらしい▲論点を拾った記事が新聞2紙に限られたため、中立性を疑っているようだ。偏りのない、十分な情報が不可欠という言い分はなるほど、その通りだろう。ならば、教室の討論にふさわしい教育予算を手当てしようと質疑が続いてもよかったはずだが▲危うきは遠ざける、当たらず障らずの政治教育のあまり、無関心や冷笑をはびこらせてはこなかったか。お上の言うまま、右へ倣えの戦前の「臣民」と戦後の「公民」は、1字違いだが別物と思い起こしてみる。

(2015年7月8日朝刊掲載)

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