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8・6平和宣言 エネ政策見直し訴え 伝える大切さ 被爆者体験盛る

■記者 金崎由美

 広島市の松井一実市長は2日、被爆66年の平和記念式典(6日)で読み上げる平和宣言の骨子を発表した。公募した被爆者の体験談を盛り込み、次世代と世界に伝える大切さを訴えるとともに、福島第1原発事故を受けて「脱原発」を主張する声を紹介し、国にエネルギー政策の見直しを求める。

 ことしの平和宣言は4月に就任した松井市長が初めて読む。1836文字。文面に採用する被爆体験談を初めて募集した。選定委員会で2点を選び、宣言文の前半に引用する。

 奈良市の深町陸夫さん(79)の体験談は8月5日までの暮らしが突然、原爆によって破壊されたことを証言。広島市在住の女性(82)はひどいやけどを負い、助けを求める人を見捨てざるを得なかった自責の念をつづる。

 東日本大震災の被災地の惨状を被爆後の広島と重ね復興への願いを表明しエールを送る。社会に放射線の脅威をもたらしている福島第1原発事故に関し「核と人類は共存できない」との故森滝市郎・広島県被団協初代理事長の言葉を引用。脱原発や再生エネルギーを求める声を紹介する一方、原発の是非については言及を避けた。

 原発をめぐる記述について、松井市長は記者会見で「選定委員の間でも意見が割れた。市民を代表してのコメントということを重視した」と説明した。

 被爆者援護をめぐって「黒い雨」の降雨地域の拡大などきめ細かい施策を国に求める。

 2020年までの核兵器廃絶を目指し、自身が会長を務める平和市長会議をさらに拡大させることを表明。臨界前核実験を繰り返す米国を名指しし、全ての核兵器保有国に廃絶への取り組みを迫る。また、核拡散防止条約(NPT)再検討会議の誘致を目指すとした。


<解説>8・6平和宣言 初の公募 「市民」色濃く

■記者 金崎由美

 広島市の松井一実市長が2日に骨子を発表した平和宣言は、被爆体験談の公募という初の試みを通し、被爆体験の継承という差し迫った課題に向き合う姿勢を印象付けた。

 松井市長は記者会見で「極力やさしい言葉を使い、広く市民と世界に共感してもらえると思う」と話した。被爆者の肉声を伝え、より感性に訴える構成。市長が責任を持って起草する方針は踏襲した上で「市民の代表」という側面を強めた。

 被爆体験の公募は来年以降も続け、街の復興の様子や放射線の後障害の苦しみなどテーマごとに盛り込んでいきたいとする。

 一方、被爆地から国内外に訴えるメッセージには物足りなさが残る。福島第1原発事故で注目された原発への言及は「脱原発」を求める意見があることの紹介にとどまる。

 宣言の柱である核兵器廃絶でも「松井流」はみえにくいのが現状だ。記者会見で日本が「核の傘」に守られながら核兵器廃絶を訴える矛盾について「いいとこ取り、ずるいとの批判があるのは承知している」と述べたが、被爆地のリーダーの見解は明確に示さなかった。

 世界の核状況の厳しい現実を直視し、核兵器保有国や核兵器に頼る国に矛盾を突き付けることなしに廃絶への道は開けないのではないか。被爆体験に裏打ちされた核兵器廃絶への発信力をどう高めていくかが注目される。


平和宣言の骨子

・被爆者2人の体験談を引用し、その体験や平和への思いを学んで次世代、世界に伝えていく決意を述べる
・臨界前核実験などを繰り返す米国を含む核保有国などに対し、核兵器廃絶に向けた取り組みを強力に進めるよう訴える
・日本政府に対し、早急にエネルギー政策を見直し、具体的な対応策を講じるべきだと主張する
・被爆者の高齢化を指摘し、「黒い雨」の降雨地域の早期拡大と国内外での援護策の充実を要請する
・原爆犠牲者に哀悼の意をささげ、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現を誓う

(2011年8月3日朝刊掲載)

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