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社説・コラム

広島で日本マンガ学会 開催の意義 表智之理事に聞く 「はだしのゲン」テーマ 

 日本マンガ学会の第15回大会が6月下旬、広島市中区のJMSアステールプラザであった。被爆70年の広島で初めて開催された意義や、シンポジウムなどを通じて見えてきた漫画の力とは。大会実行委員長で、同学会の表智之理事(45)に聞いた。(石井雄一)

 ―今回、広島で開催したのはなぜですか。
 漫画のコースを設けた比治山大(広島市東区)を主体に、地元から誘致があったのがきっかけ。広島市は市まんが図書館が1997年に開館している。自治体が、漫画をしっかりと文化行政に取り入れた。研究者にとって広島市は偉大な先人といえる。

 ―原爆漫画「はだしのゲン」がテーマでした。
 「ゲン」を「平和の大切さ」というスローガンで集約してしまうのは、もったいない。やや泥くさいと思える描線で親しみを出したり、生きる喜びが描かれていたり。本作が人を引きつけるのは、メッセージ以外にどんな要素があるのか。「ゲン」をしっかり漫画として捉え直そうと試みた。

 ―「ゲン」をめぐっては一昨年、松江市で閲覧制限が問題になりました。
 漫画は、面白くかつ危険なもの。負の側面を持つことは否定しない。しかし、日本の漫画は、重層性と多様性を持っている。「ゲン」とは、見方が違うような歴史の描き方をする漫画も探せばある。特定の漫画の表現を取り上げて、抑圧することは結局、漫画の多様性を失わせてしまう。

 ―広島での大会を通じ、何が見えてきましたか。
 一面的な理解では済まされない作品として「ゲン」がある。その「ゲン」を論ずる意義を示せたと思う。

 「戦後」と簡単に言うが、今は、戦後と同時に「戦前」かもしれない。シンポジウムで、戦争を描いてきた漫画家の、執筆動機や「業」みたいなものも見えた。そうやって、漫画家がいろんな視点で戦争を描くことが許容され、読まれる世の中であってほしい。

(2015年7月8日朝刊掲載)

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