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社説・コラム

どう見る安保関連法案 元自衛官・泥憲和さん 他人のけんか買うことに 非武装外交は日本の役割

 安全保障関連法案で容認する集団的自衛権は、他国が武力攻撃を受けた際に行使する。売られてもいない他人のけんかを買うのと同じことだ。戦争に巻き込まれるどころか、飛び込んでいくことになる。米国と共に、テロに対する戦いに参加することを意味する。

言葉のごまかし

 兵庫県姫路市生まれ。地元の中学校卒業後、陸上自衛隊の中堅幹部を養成する旧少年工科学校に進学。実習後に地対空ミサイルを使う部隊に配属された。当時の仮想敵国・ソ連の戦闘機を撃ち落とす任務だった。

 これまでの個別的自衛権行使は、他国から武力攻撃された場合に限定して明確だった。集団的自衛権行使の基準を規定した新3要件はあいまいだ。他国が攻撃されたら日本が危うくなるかもしれない、という見込みで発動できる。政府の解釈次第でどうにでもなる。

 自衛隊員時代、先輩から「自衛隊は日本最大の反戦組織だ。もし戦争になったら役割を果たせていない」と言われた。戦争にならないことを目的に存在し、専守防衛に徹するからだ。戦争に対し厳しい一線を引いてきた。政府は「専守防衛に基づく集団的自衛権」と言うが言葉のごまかしだ。

無用の警戒生む

 安保関連法案は、自衛隊活動の事実上の地理的制約を撤廃する。米軍以外の他国軍への後方支援も随時、可能にする。自衛隊の活動範囲は広がるが、政府は「自衛隊は以前からリスクの高い任務を遂行している」と説明している。

 確かに自衛隊の仕事にはリスクが伴う。それでも自衛官は、覚悟を持って任務に当たっている。ただ、問題はそれが必要なリスクかどうかだ。国論は二分している。国民の後ろ盾のない軍隊は弱い。このまま理解されないまま、命を懸けなければいけない自衛官がかわいそうだ。

 法案が可決されれば北東アジアに無用の警戒を生むことになるし、可決しなければ米国の信頼を失う。どちらに転んでもいい結果を生まない。

 日本には素晴らしい外交実績がある。フィリピン南部のミンダナオ島のイスラム武装勢力とフィリピン政府の和平交渉だ。国際協力機構(JICA)を通じて農業や教育分野を援助し、停戦監視団も派遣した。日本は唯一非武装の人材を送り、約40年の紛争を終わらせた。日本が国際社会で目指すべき役割の好例だと確信している。(有岡英俊)

(2015年7月3日朝刊掲載)

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