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社説・コラム

社説 安保「対案」提出 期限切らず審議尽くせ

 安全保障関連法案をめぐる与野党の動きが風雲急を告げている。きのうは民主党と維新の党が衆院に「対案」を提出した。

 集団的自衛権を容認する政府提出の法案は多くの憲法学者から「違憲」と指摘されているにもかかわらず、与党側は早ければ15日にも衆院の特別委員会での採決を図ろうと前のめりだ。

 「60日ルール」を意識しているのは間違いない。参院で議決されなくても再議決するためには、7月下旬を衆院通過のリミットとみているようだ。

 対案は、そうした拙速な審議に「待った」をかけ、より多角的な議論を促そうとしている。野党の役割を一定に果たすものといえるだろう。

 対案の中身は政府案と同様、複雑で多岐にわたる。

 維新の対案の柱は、政府案が集団的自衛権行使の要件とする「存立危機事態」に代えて設けた「武力攻撃危機事態」である。対象を日本周辺に限定し、そこで日本を守るために活動する外国軍への武力攻撃があったケースを想定している。日本への攻撃はまだないが、その明確な危険がある事態を指しているのだという。

 維新の側は「個別的自衛権を拡大した概念」と説明する。疑問が残る内容だが、集団的自衛権を容認する政府案と大きな隔たりがあるのは間違いない。中東・ホルムズ海峡での停戦前の掃海活動など、経済的危機を理由とした自衛権の行使も認めていない点も目を引く。

 一方、民主と維新が共同提出した「領域警備法案」は、日本への武力攻撃には至らないが、警察では対応できない「グレーゾーン事態」に備えるものだ。尖閣問題への対応が念頭にあるらしい。自衛隊と海上保安庁、警察の連携をスムーズにするのが狙いだが、グレーゾーンは一触即発の戦闘につながりかねない。こちらも政府案と違う点があり、突っ込んだ論議が必要なのは言うまでもない。

 だが、与党の側は両党の対案を踏まえた政府案の修正は見送り、このまま採決に突っ走る姿勢だ。それでいいのか。政府・与党はこの法案の審議時間の目安に80時間を挙げてきたが、野党案もそれと同じくらいの時間をかけてもおかしくはない。

 数の力に甘んじ、異論に耳を貸さずに押し通していいのか。おごりが過ぎよう。

 6月下旬の世論調査では、安保法案を「違憲」とみる人が半数以上を占め、「十分に説明しているとは思わない」と答えた人は8割を超えている。政府案だけに限っても決して審議が尽くされたとはいえない。

 採決をめぐる駆け引きが激しくなる中で、維新の姿勢も気掛かりだ。対案を民主と共同提出するに当たり、いったん物別れに終わった。審議時間を確保するために、採決の日程を与党側と擦り合わせることや、採決の際に特別委の出席を民主側に求めたからだという。

 政府案の議論が明らかに不十分であり、対案の審議の行方も見通せないまま、採決ありきで与党に協力するのは国民に対して不誠実だろう。

 野党が採決を欠席し「強行採決」となるのを避けたい政府・与党の思惑に安易に手を貸していいのか。国の根幹に関わる法案である。期限を切らずに徹底的に議論するほかない。

(2015年7月9日朝刊掲載)

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