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社説・コラム

『潮流』 背番号のない君へ

■運動部長・小笠喜徳

 夏の甲子園へつながる高校野球の地方大会が始まった。中国地方でも10日の広島大会開幕以降、次々に球音が響く。毎年の大会で、気になる存在がいる。スタンドでひときわ大きな声援を送る、ユニホームに背番号のない君たちである。

 広島大会の場合、ベンチ入り登録は20人しか許されない。大会を控え、多くのチームでメンバー発表があったことだろう。選ばれた喜びと、選に漏れた絶望とが交錯する残酷な空間。1、2年生なら来年があると声も掛けられる。が、大所帯のチームでは、3年間どれほど汗を流しても、どれほど歯を食いしばっても、集大成のこの大会でメンバーに入れなかった3年生がいる。17、18歳にして、「メンバー外通告」を受けた君たちを慰める言葉は見つからない。

 ことしで高校野球などの指導に携わって50年目を迎えた広島・如水館の迫田穆成監督(76)は「外した子に直接的なフォローはしない。勝負の世界なんだから」と厳しい。しかし、こうも付け加える。「メンバー入りを逃した子が、それでも懸命に練習する姿が周りに伝わり、チームが強くなる。エリートよりも下積みを重ねた子の方が、絶対に心は強い」

 卒業後に監督やコーチを慕って、グラウンドを訪ねてくる元球児は、レギュラーだった選手よりも控えだった子の方が多いそうだ。後輩たちに野球論や人生観を、しっかりと自分の言葉で伝えてくれるという。挫折からはい上がった強さがそこにある。

 間もなく始まる大舞台。大声援はグラウンドの選手たちだけに向けられたものではないはずだ。背番号のないユニホームをまとい、スタンドで声をからす君たちの貢献への感謝と激励の声援でもある。白球の行方とともに、大きな試練を乗り越えようとする君たちも見守りたい。

(2015年7月9日朝刊掲載)

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