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社説・コラム

ひと・とき 作家・飛騨俊吾さん 思い合う姿 届けたい

 「広島を舞台にしてよかった」。尾道市因島などを舞台に、広島東洋カープの42歳のルーキー投手を主人公にした「エンジェルボール」(全4巻)で作家デビューした。刊行後初めて広島を訪れ、書店に自著が並ぶのを見て感激した。

 主人公は、トラック運転手をしながら小学生の息子2人と因島で暮らす寺谷和章。ある夜、事故に遭い、謎の天使から魔球を授かる。それをひっさげてカープに入団し、日本一を目指して奮闘する物語だ。

 横浜市生まれ。現在は東京で暮らす。大林宣彦監督の「尾道三部作」を見たのがきっかけで、20代半ばに旅行で尾道市を訪れた。向かいの島から学生や会社員が船で通う風景に驚いた。さらに、小学生の時にカープが初優勝した記憶が鮮明に残る。会社勤めの傍ら、30代半ばで書き始めた小説で「瀬戸内の島とカープが題材として重なった」。

 今作は、2008年に書き始め、13年6月に完成した。電子書籍で自費出版した作品を出版社に持ち込むと、編集者の目に留まり、文庫化が決まった。「野球の小説だが、描きたかったのは、人と人が互いを思い合う姿」と力を込める。

 「原爆の焼け野原から、市民が一丸となって復興したパワーはすさまじい。広島の街で、この作品が広く愛してもらえたらうれしい」(石井雄一)

(2015年7月9日朝刊掲載)

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