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社説・コラム

『潮流』 縮む平和公園

■論説委員・東海右佐衛門直柄

 「平和記念公園は縮小しつつある」

 日系3世の米国人、スティーブン・オカザキ監督は2005年にアカデミー賞候補となった記録映画「マッシュルーム・クラブ」で語っている。世界遺産登録された後の原爆ドームとその周辺が、街のにぎわいの中に埋没している―。そう憂いを込めたのだろう。

 その公園の川向かいで、かき船の移転準備が進む。9月にも完成する。どう受け止めるのか、市民の思いは分かれるかもしれない。

 かき船業者は、国から治水上の問題を指摘され、現在地から上流のこの地へ移る。江戸時代から続く地域の食文化ともされる。広島市も「観光振興になる」と計画を推進する立場だ。

 一方「慰霊の場に宴席はふさわしくない」と市民団体は反対する。現場は原爆ドームにも近いため、平和を静かに考える環境が損なわれ、世界遺産の保全要件にも抵触する、と訴える。

 主張はすれ違い、ついに先日、市民団体などが国に移転許可取り消しを求めて提訴した。今後は司法の判断に委ねられよう。

 ただ今回投げかけられたことを、個別の問題にはとどめたくない。

 大切なのは公園一帯の雰囲気をどう保っていくか、周辺のまちづくりの将来像について官民で議論し、描き直すことだろう。今後、河岸に人の手を加える場合には幅広い市民の合意が必要ではないか。

 公園近くの川面を走る水上バイクなどに眉をひそめる市民も多い。春先の花見は広く受け入れられている一方「酒を飲んで騒ぐ場所か」との声がある。公園利用のマナーやルールも再考したい。

 オカザキ監督は被爆60年の節目に、広島が持つ記憶の風化を捉えた。それから10年。監督の目に現在の平和公園はどう映るだろう。さらに「縮小」しているのだろうか。

(2015年7月11日朝刊掲載)

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