×

社説・コラム

どう見る安保関連法案 軍事ジャーナリスト・前田哲男さん 「抑止」の一般化に違和感 対中外交の努力みえず

 安全保障関連法案によって「抑止力が高まる」という政府・与党の説明には違和感がある。抑止の概念は、そもそも核兵器に用いられてきた。最終兵器である核兵器を持ち、相手国の行動をためらわせるという理論だ。通常兵力などにも広げて一般化するのは、政治的なアジテーション(扇動)に思える。

北朝鮮軍拡招く

 1961年に長崎放送記者となり、71年に独立。核や自衛隊の問題を半世紀以上追い続ける。非軍事的な安全保障の構築を訴え、東京国際大や沖縄大で教壇にも立ってきた。

 60年代から日米安保の議論を見てきた身としては、ここまで憲法9条がゆがめられるとは思ってもみなかった。90年代の国連平和維持活動(PKO)協力法や周辺事態法の成立では、憲法解釈が少し外にせり出すという感覚を覚えたが、集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定でついに根底から覆された印象だ。

 米軍と自衛隊が平時から一体運用を図り、ミサイル防衛を強化しようとすれば、北朝鮮は軍拡に向かう危険がある。冷戦時代に核兵器を手にしてにらみ合っていた米国と旧ソ連は、お互いにミサイル防衛の強化は避けていた。先制攻撃したい欲望に逆らえなくなるからだ。

 尖閣諸島のような場所をある種の武装警察である海上保安庁が守るのは、国同士の交戦を避けるためのクッションでもある。「海保には手に余るから自衛隊の出番だ」という論理は間違っている。本当に相手がためらい、平和が維持されるかどうか。辺境での武力衝突から戦争になった歴史は後を絶たない。

 中国との関係でいえば、政治による対話で緊張を解きほぐそうという外交努力がみえない。それができないから自衛隊を出動させようという発想がおかしい。今夏に発表される戦後70年の首相談話こそ、関係改善の契機にすべきだ。

足りぬ審議時間

 安保関連法案を議論する衆院平和安全法制特別委員会での審議が採決の目安としていた80時間を突破したとして、与党は15日に特別委での採決、16日の衆院本会議での可決、通過を目指している。

 法案は撤回、廃案にするべきだと考えるが、そもそも80時間を目安とする必要があるのか。日米安保条約を審議した60年の衆院特別委は153時間かけて採決した。今回の法案はまだ総論しか議論しておらず、具体的な条文の検証まで至っていない。このままでは運用段階でいいかげんにならないか心配だ。(藤村潤平)

(2015年7月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ