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社説・コラム

社説 安保法案採決へ 数の力で押し切るのか

 安全保障関連法案の衆院審議が最大のヤマ場を迎えた。

 きのう特別委員会で「採決の前提」とされる中央公聴会が開かれた。政府・与党側はこのまま15日にも委員会で採決する構えである。野党側が、この日程に反発しても強引に押し切るつもりなのだろう。

 菅義偉官房長官は「論点がだいぶ整理されてきた」と述べたが本当なのか。審議時間は、与党側が一方的に見立てていた80時間という目安は確かに上回っている。しかし採決する前提は審議時間ではなく、議論が尽くされて理解が深まったかどうかだ。現時点では全く不十分だと言わざるを得ない。

 現にきのうの公聴会でも、法案への根本的な疑問点があらためて浮き彫りになった。

 もともと法案の記述が曖昧であり、どのように解釈されてもおかしくない点である。野党が推薦した公述人、木村草太・首都大学東京准教授は、そこを突いたといえよう。

 集団的自衛権行使の前提条件として政府案が位置付ける「存立危機事態」について木村氏はこう言う。「『わが国の存立』という法案の言葉は曖昧不明確ゆえにそもそも違憲だ」。どんな場合に自衛隊が他国軍を支援できるのか明確でなく、法律としての安定性に欠くという。いっそ集団的自衛権行使が必要ならば憲法9条の改正手続きを踏むべきだ、とも指摘した。

 むろん国際情勢は流動的な要素があり、事前にどんな事態が起こりうるかは想定しにくい面があろう。それゆえに法案の曖昧さを容認する意見もある。

 しかし、私たちはそうは考えない。時の政権がその時々の判断で自衛隊を動かせる余地が大きければ、恣意(しい)的な運用が広がり、際限なく拡大していく恐れがあるからだ。

 国民の根強い不安を思えば、安全保障をめぐる新たな法律が必要だとしても、できる限り厳密に歯止めをかけるべきだ。そこが政府案に欠けている。

 先週来の特別委員会の政府側の答弁を見る限り、ここに至っても安定感に程遠い。例えば朝鮮半島など日本周辺有事の際、集団的自衛権が行使できる状況について安倍晋三首相は「米艦が攻撃される明白な危機がある段階」とした。先月の審議では「米艦にミサイルが発射された段階」と説明していた。つまり行使の対象が、いつのまにか拡大したことになる。

 焦点の一つである中東・ホルムズ海峡での戦時の掃海活動の条件について、岸田文雄外相が先週になって見解を修正し、陳謝したのも気になる。

 あまりにも場当たり的ではないか。肝心な部分で政府見解が簡単に変わるようでは困る。法案の中身もさることながら、内閣としての姿勢がいかに生煮えであることを象徴していよう。

 こうした状況が国民の不信感に拍車を掛けていることを、安倍政権は分かっているのだろうか。共同通信社の6月下旬の世論調査では法案について「説明不足」とする回答は84%に上っていた。自民・公明両党の支持者も含まれているはずだ。

 せめて今国会にこだわらず、十二分に審議時間をかけるのが筋であろう。このまま数の力で押し切るなら、将来に汚点を残す。首相自身が胸に手を当て、思いとどまるべきである。

(2015年7月14日朝刊掲載)

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