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社説・コラム

社説 イラン核 最終合意 平和解決の意義大きい

 被爆70年というのに核兵器廃絶の道筋がなかなか見えない。5月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議も決裂した。核をめぐる状況が厳しさを増すだけに、久々の朗報といえる。

 2002年から核兵器開発の疑惑が持たれ、核武装の一歩手前まで進んでいたイランの動きに歯止めがかかりそうだ。国連安全保障理事会の5カ国とドイツを交えた協議が決着し、包括的共同行動計画が発表された。

 核保有国がもう一つ増える事態が、外交努力で回避されるとすれば画期的であり、被爆地としても歓迎したい。

 合意内容は一定にうなずけよう。イラン国内のウラン濃縮などは最大15年にわたり制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く。イラン側で制限の履行が確認されれば、見返りとして核関連の経済制裁は解除されるという。最大の生命線である原油取引が再開の運びとなれば、日本のエネルギー需給にも好影響をもたらすはずだ。

 4月に包括解決に向けた「枠組み」で合意して以来、駆け引きが続いたが、最終的にイラン側が歩み寄ったように見える。最高指導者ハメネイ師が「越えてはいけない一線」と拒否してきた軍事施設の査察は、条件付きとはいえ容認したと伝えられる。イランが解除を要求していた武器禁輸なども継続される。

 せっかくの合意を無にしてはならない。イランが査察強化の完全な受け入れなどを誠実に履行するのは当然である。

 一方で「宿敵」だった米国では共和党を中心に、イランへの強硬論がくすぶるのは気掛かりだ。イランを敵視するイスラエルが早速、反発したことに配慮する向きもあろう。合意内容の米議会承認は見通せない。

 だが各国の目先の思惑より、はるかに重い歴史的な意味が今回の合意に含まれていよう。

 イラン国内でみれば国民の声が事態を動かしたことだ。民主主義が根付いたと言い難い国だが、2年前の大統領選では穏健派のロウハニ師を当選させ、対外強硬路線による孤立から対話へとかじを切らせた。

 国際社会にとっての意義も大きい。核疑惑をめぐっては米国やイスラエルがイランへの軍事攻撃も想定し、いわば戦争寸前だった。その事態を対話で乗り越えたことになる。しかも欧米と何かと対立するロシアや中国も交えた合意である。協調外交のモデルケースとなり得よう。

 そもそも日本の集団的自衛権行使の例としてホルムズ海峡の機雷処理が挙げられてきたのは米国とイランの戦争が視野にあったからではないか。平和的解決に向かった現時点で、自衛隊の掃海活動の現実的な必要性はさらに薄まったとみていい。

 仮にイランが核武装していれば、対立するサウジアラビアなどが連鎖的に核開発に走る「核のドミノ」が起きていたかもしれない。今回の合意を中東全体の安定化につなげるとともに、限界が露呈したNPT体制の立て直しへの好機にもしたい。

 ことしの再検討会議では中東非核化を協議する国際会議も提案されたが、イスラエルと関係の深い国々の反対に遭って決裂の直接的な原因となった。今こそ実現し、「核なき世界」へ再び踏み出すべきである。核保有の野望を捨てようとしない北朝鮮への圧力ともなるはずだ。

(2015年7月15日朝刊掲載)

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