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連載・特集

『生きて』 児童文学作家 那須正幹さん(1942年~) <1> ズッコケとともに 

子どもの喜び 書く源泉

 「ズッコケ三人組」シリーズの生みの親である児童文学作家、那須正幹(まさもと)さん(73)=防府市。全50巻、累計2500万部は、戦後の日本児童文学最大のベストセラーだ。子どもたちを楽しませる作品を、と書き続けてきた。一方で、3歳の時の被爆体験を踏まえ、講演などを通じて原爆や戦争の愚かさを伝え続けている。

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 こないだ数えたら、今、40年間で250冊書いとるね。文庫とかは別にして。よう書いたよ。一つは、物語を作るんが好きで、ほんと性に合っとったんじゃろうね。よく筆の遅い人いうのは、うなったりするって言うじゃろ。僕は分からんね。書けんで困ったという記憶がない。

 ただ、実は僕自身、小学校時代はまったくの本嫌い。よし、そんな僕でも、夢中になって読める、面白い作品を目指そうと思って書き始めた。中でも、「ズッコケ三人組」シリーズは、それこそ人生の半分以上の付き合いがある。あの50巻は、ほんとライフワークじゃったね。

 続いたもう一つの理由は、子どもたちの支持じゃろうね。読者とのキャッチボールというか。例えば「児童会のことを書いて」とか、子どもたちからのリクエストに応じて、作品を書いたりもしたからね。僕は、ファンレターには必ず返事を書く。小学生の時、手塚治虫にファンレターを出したら返事が来てね。あの時の感激はいまだに覚えとるから。

 2005年、続編「ズッコケ中年三人組」シリーズをスタート。ことし12月に最終巻「ズッコケ熟年三人組」を刊行し、締めくくる。最後に選んだ題材は、昨年8月の広島土砂災害。被災地にも足を運んだ

 更地の真ん中に花が供えてあって。ここで大変なことが起こったんだなと、実感できた。物語では、三人組の一人、中学教師のハカセが、土砂災害に遭遇し、教え子の安否を尋ね回る。70年前、広島電鉄家政女学校の教師だったおやじが、被爆後に、生徒を捜して回っている。その話は、よう聞かされとったからね。

 あの日、死んでもおかしくなかったのがこれまで生きてこられた。戦争を記憶する僕らが、伝えていかなければという責任感は感じるね。(この連載は文化部・石井雄一が担当します)

(2015年7月15日朝刊掲載)

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