×

ニュース

民意無視 怒りの渦 安保法案 強行可決 「戦争イケン」 中国地方で集会やデモ

 「説明不足だ」「民意を無視している」―。衆院平和安全法制特別委員会で行われた安全保障関連法案の強行採決に対し、中国地方では15日、抗議の集会やデモが相次いだ。本紙連載「どう見る安保関連法案」に登場した識者や元自衛官たちにも批判の声が聞かれた一方、国際情勢などを考慮して評価する意見もあった。

 広島市中区の原爆ドーム前では、広島県9条の会ネットワークなど三つの市民団体でつくる実行委員会が抗議の座り込みをした。約130人が「戦争イケン」と書いた紙などを掲げ、安全保障関連法案の強行採決を批判した。

 実行委員長の石口俊一弁護士は「憲法学者たちも違憲と反対している。全国で手をつなぎ廃案に持ち込もう」と訴えた。安芸区の山野井恵子さん(64)は「憲法9条に守られて生きてきた。国民の声を聞くのが政治家。このまま黙っていてはいけない」と話した。

 集会後は市中心部で署名集めや街頭宣伝。買い物客たちに「戦争法を廃案にしよう」「安倍政権に抗議しよう」などと訴えた。

 福山市のJR福山駅前では、約20の団体・個人でつくる「STOP!『戦争への道』広島県東部実行委員会」が集会を開き、約200人が参加。「民意を踏みつけて法案を通すのは許せない」と声を上げた。同市の住職坂田光永さん(36)は「審議でまともに答弁せず、強行採決するのは民主主義に反する」と憤った。

 尾道市のJR尾道駅前でも市民約40人が「子どもたちを戦場に送らせない」などと書いた横断幕やプラカードを掲げた。同市の主婦小林久恵さん(62)は「国民に十分な説明をしていない」と訴えた。

 「ズッコケ三人組」シリーズを生んだ児童文学作家那須正幹さん(73)=防府市=は山口県庁で会見し「審議が尽くされておらず、数の力でごり押しした」と批判。「戦後の日本を大転換する悪法。子どもが戦争に駆り出される状況が来つつある。児童文学者として黙っていられない」とした。

 松江市のJR松江駅前では民主党、共産党などの関係者が集会を開催。民主党島根県連の和田章一郎代表は「廃案に全力を尽くす」と強調し、共産党の尾村利成県議も「民意無視の強行採決を糾弾する」と声を張り上げた。鳥取市でも市民など約20人が「憲法9条をじゅうりんする法案は廃案に追い込もう」と呼び掛けた。

なぜ 疑問噴出

法案矛盾解消されず 前田氏

 きょうの審議でも、自衛隊員のリスクや米艦の防護などの質疑が繰り返されていた。110時間以上審議しても議論が深まっていないことを象徴している。その中で、1960年の安保条約を思い起こすような強行採決だった。

 法案が持つ矛盾も解消されたとは言いがたい。集団的自衛権の行使は、過去の自民党政権が「できない」と言い続け、歴代の法制局長官や憲法学者の多くが違憲との見解を示してきた。政府の答弁を聞いても説得力がないままで、安倍晋三首相も「国民の理解が進んでいないのも事実」と答弁した。それなのに、なぜ強行採決という結論に至るのか、理解できない。

 審議は総論ベースで進み、11法案の各条文に対する政府の見解は結局ほとんど示されていない。このまま法が成立すれば、米軍の要請に全て従わざるを得ない状況になる恐れがある。

国民は危険性を実感 泥氏

 衆院の審議では、集団的自衛権と個別的自衛権の定義が整理されないままだった。違憲と表明する多くの学者の声もないがしろにした。絶対的に審議の時間が短すぎる。安倍晋三首相は「国民の理解は進んでいない」と認めたが、なぜこんなに焦っているのか。

 自衛隊がどこでも活動できるようになり、他国軍に弾薬も提供できる。後方支援の対象も広がる。日本が戦争に加わる可能性が高まることへの危機感が募っている。関西地方を中心に、法案へ反対する集会に連日参加しているが、どの会場にも多くの人が集まっている。国民は法案の危険性を実感している。

 何よりこれまでの審議では、法案の必要性が明確にならなかった。よく例示される中国の急速な軍拡など北東アジアの情勢が、なぜ理由になるのか。既存の法体系で対応できるものばかりではないか。

権力の横暴極まれり 亀井氏

 権力の横暴ここに極まれり、だ。権力を持っている者が後先考えずにそれを振り回すと、国家はがたがたになってしまう。首相というものは冷静に対応しなければならない立場なのに、安倍晋三首相はむちゃなことをしている。

 集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法案の内容を本当に進めたいのであれば、憲法を改正しなければならない。日米安保条約の改定が必要になる内容も含んでいるのではないか。大切な二つの手続きを抜きにして、一内閣が憲法解釈を変更しただけで推し進めていいわけがない。解散・総選挙で、真正面から国民に信を問わねばならない問題だ。

 16日には山崎拓・元自民党副総裁たち、かつて政権中枢にいた人たちと一緒に、あらためて法案反対を訴える予定だ。このまま放っておくと、日本は大変なことになる。

武力で平和築けない 山下氏

 採決は暴挙だ。政府は、これ以上長引かせても内閣支持率が下がるだけだと踏んだのだろう。与党は「十分審議した」と言っているようだが、何をもってそんなことが言えるのか。数の力で押し切ったにすぎず、国民をばかにしている。

 集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法案は、米国との同盟関係を強める。しかしそれは一方で、米国が始めた戦争に巻き込まれる可能性が高まることを意味する。私は15歳で被爆し、戦争の悲惨さを知っている。武力に頼っても平和な世界は築けないことは歴史が証明している。

 恐ろしいのは、これほどの一大事なのに国民の反応が鈍いことだ。デモがあったり、地方議会で法案反対の意見書が採択されたりしたが、政府にプレッシャーをかけるほどの大きなうねりになっていない。もっと声を上げないと、国民が認めたと思われてしまう。

現行法 国家守れない 平沼氏

 最低限の「戦争抑止法案」である安保関連法案に賛同したい。国民の安全と平和を考えたら当然のことだ。

 日本の安全保障環境は、これまでになく厳しさを増している。現行の法律では、国家や国民を守れない。

 自衛隊が米軍などと緊密に連携して、日本の防衛力を高めることが、結果として地域の平和を守ることになると考えている。

 万が一の事態が起きたときに「想定外」との言い訳は通用しない。政府案では、領域警備を含め、武器使用権限などがまだ不十分なぐらいだ。本来は自衛力の強化に向け、憲法を改正すべきだと思っている。

 戦争に巻き込まれるとの批判があるが、法案を良く読んでみれば、国会できちんと歯止めをかけること、巻き込まれそうになったら撤退することが書いてあると言いたい。

国際情勢見れば当然 落合氏

 他国軍の後方支援をめぐり政府は従来、必要が迫られる事態が起きるたびに時限立法の特別措置法を作り、その場しのぎの対応をしてきた。恒久法ができれば国際社会の一員として十分な役割を果たせる。安全保障関連法案の衆院特別委での可決は喜ばしく、やっと普通の国に近付きつつあると感じる。

 私がペルシャ湾に派遣されたのは湾岸戦争後の1991年。自衛隊初の海外実任務だった。以降、特別法を作るごとに憲法との整合性が問われた。法案について「審議が不十分」との指摘があるが、私に言わせれば、24年間にわたって十分すぎるほど審議してきた。

 一国だけでは国を守れない。「日本は平和憲法がある」と言っても何にもならない。国際情勢を踏まえれば当然の法整備であり、自衛隊の能力が最大限発揮できるものにしてほしい。一日も早い成立を望む。

(2015年7月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ