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社説・コラム

天風録 「開き直りの弁」

 オーストラリアのアボット首相は、時に物議を醸す「珍言」でも知られる。野党の党首時代には新税を導入しないと公約して1カ月後、発言を翻した。責められた本人はこう述べたという。「私は政治家だ、信用するな」▲政治家の約束はこうまで軽いのかと、あきれ返った人たちも多かったろう。ただ一方で「いやいや正直だ」と妙に納得する声も同時に広がったらしい。さて、こちらの発言はどうだろう▲珍言か、あるいは正直な弁か。かの法案の採決強行で大荒れとなった国会で、わが国の首相は「国民の理解が進んでいない」と事もなげに認めた。「相当理解が深まった」と公言してきただけに脱力した人もいたに違いない▲豪州のように正直者と評価する向きはさすがに少なかろう。国民の懸念や不安を正面から受け止めず、土壇場で開き直った。そんなふうに受け取れるからだ。「決める時は決める」との定番フレーズで、数を頼りに押し通せるほど世論は甘くはない▲「説明は正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」と答弁したことも。これぞ珍言の類いだろうか。「彼は首相だ、信用するな」。日本のためにも、そんな声が広がらないことを祈る。

(2015年7月16日朝刊掲載)

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