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社説・コラム

社説 安保法案参院へ 徹底審議し禍根残すな

 まさしく粛々と、安全保障関連法案が衆院本会議でも可決された。数の力を頼みとする安倍政権は国民の不安や疑問をまるで意に介さない。

 安倍晋三首相や与党議員には国会を取り囲んで抗議する人の輪がどう映ったか。憲法学者らの「違憲」批判を含め、都合の悪いことにはこのままふたをする腹づもりなのだろうか。

 参院に審議の舞台は移る。衆院通過で成立が確実になったとの見方もあるが、私たちはそうは考えない。まだ手続きの半分が終わったにすぎない。

 参院は「良識の府」とも「再考の府」とも呼ばれる。この安保審議はまさしく、参院の存在意義や二院制の真価が問われる。

 安保法案は国際平和支援法案と、自衛隊法改正など10の一括法案からなる。政府与党は「116時間かけた」として衆院特別委員会の審議を打ち切った。

 一つ一つが平和国家の根幹に関わるというのに、1法案当たりにすると、10時間程度というのは明らかに短い。

 「法律を10本も束ねたのは、いかがなものか」との声が、衆院特別委の浜田靖一委員長から出た意味は重い。採決を強行した張本人が「答弁と質疑がかみ合わないところもあったのは事実だ」とまで言った。

 首相は衆院通過を受け「良識の府ならではの深い議論を進めたい」と述べた。ならば法案審議の在り方を白紙から見直すべきだ。この際、一括審議ではなく一つずつ分離したらどうか。

 衆院では維新の党の「対案」審議が数時間で打ち切られ、あっさり否決に至った。参院ではこうした手法は許されまい。野党提出の法案を審議する場合にも、政府案と同様に丁寧な扱いが求められるはずだ。

 政府与党が今週、衆院可決を急いだのは、参院で結論が出ずとも衆院での再可決で成立する「60日ルール」が使えなくなると踏んだからだ。しかし参院をはなから無視する姿勢があるとすれば論外だ。首相が認めるように国民の理解が進んでいないばかりか法案への疑問は日増しに膨らんでいよう。

 集団的自衛権の行使要件とする「存立危機事態」をめぐっても定義や対象は曖昧なままだ。「総合的に判断する」として明言を避ける政府にこのまま白紙委任しろというのだろうか。

 自衛隊の活動範囲が飛躍的に拡大するのに、隊員のリスク増を認めようともしないことも、やはり問題である。

 参院では最大の疑問点である法案の違憲性はもちろん、法案をめぐる衆院答弁のおかしさをあらためて検証すべきだ。その結果、廃案として法案を一から出し直すか、少なくとも今国会の成立を断念するしかないという結論に行き着くはずだ。

 民主主義をないがしろにする政権は、ここにきて逆風に慌てているように見える。

 強引というイメージが定着するのを恐れているのだろう。政府は工費が膨らんで無駄遣いとの批判が強い新国立競技場の計画を見直す方針を示した。それ自体は当然のことだろうが、国民を懐柔するための政治パフォーマンスにも映る。

 与党も野党も国会議員は永田町では世論に疎くなる。選挙区に帰ってきた際に声をぶつけたい。このまま将来に禍根を残すわけにはいかない。

(2015年7月17日朝刊掲載)

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