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語らぬ被爆者 朗読10年 尾津さん 他者体験で悲劇伝える 広島

 広島市南区の尾津佳代子さん(77)が今夏、被爆体験記の朗読ボランティアを始めて10年を迎えた。被爆者だが「二度と思い出したくない」として自らの記憶は語れない。ただ原爆の悲惨さと平和への願いを伝える手だてとして、同じ被爆者のあの日を発信している。(樋口浩二)

 1日は、市内に研修に訪れた東京大教育学部付属中等教育学校5年生約40人を前に、原爆で息子を亡くした女性の体験記を朗読。「もう原爆はやめてください」と訴えた。国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(中区)の朗読ボランティアとして、年約30回、依頼を受けている。

 尾津さんは小学2年の時、千田町2丁目(現中区)の自宅近くの道端で被爆した。祖母と母、妹の家族4人は一命こそ取り留めたが、自宅を焼かれて県内を転々とした。友人も亡くしたという。

 「胸が詰まってとても語れない」と、自らの被爆証言は封印。代わりに「他者の体験なら話せるのでは」と2005年にボランティアになった。ただ練習で台本を読めば今も涙する。「伝えるためには演じ切るしかない」と吹っ切り、本番に臨んでいる。

 「二度とあの惨禍が繰り返されないよう体の続く限り朗読を続けたい」と尾津さん。19日は、所属する朗読グループ「森の会」(網本えり子代表)が午後1時半から中区寺町の広島別院で上演する朗読劇「流燈(りゅうとう)」で、旧制市立第一高女(市女、現舟入高)の悲劇を伝える。入場無料。網本さんTel090(2809)8390。

(2015年7月17日朝刊掲載)

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