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社説・コラム

社説 辺野古検証報告書 沖縄の民意に向き合え

 前知事による手続きは適法だったのか―。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設に向けた名護市辺野古沖の埋め立て承認について、第三者の立場で検証してきた県の有識者委員会が法的な「瑕疵(かし)」、つまり抜かりがあるとの報告書を出した。

 県内移設の阻止を公約に掲げる翁長雄志(おなが・たけし)知事にとっては、好都合だろう。報告書の扱いについて「最大限、尊重する」と繰り返してきており、8月中にも承認取り消しに踏み切る公算が大きくなっている。

 ただ残念ながら、今回公表された報告書は2ページほどの概要版にすぎない。結論だけ、それも抜き書きである。これをもって行政手続きをひっくり返す根拠になり得るかは、必ずしも定かでない。それほど問題は重く、慎重な判断が迫られる。

 まして報告書の結論は国の埋め立て申請自体が必要性や環境保全などの点で法の要件を満たしていないと断じている。果たして国と対峙(たいじ)できる「切り札」になり得るのかどうか。論拠を見定めるためにも、計686ページに上るという報告書を一日も早く公表してもらいたい。

 検証のための会合はハイペースで進み、約5カ月間で計12回に上った。政府の動きを横目でにらんでいたからだろう。既に調査・設計の作業は着々と進んでおり、中谷元・防衛相は埋め立ての本体工事の着手について「夏ごろ」と発言している。

 仮に翁長知事が承認取り消しに動けば、移設スケジュールは揺らぐ。政府は取り消された場合には無効を求めて即時、行政不服審査法に基づく請求をするとみられる。今年3月、知事が移設作業の停止を防衛省に指示した際も、すぐさま同様の対抗措置を取っている。

 片や知事側は6月に担当課を新設し、法廷闘争も辞さない構えを見せる。とはいえ争った末に沖縄に有利な判断が出る保証はない。逆に、国から巨額の損害賠償を県が求められるリスクさえ抱えかねない。

 国との亀裂が深まる要因は、ほかにもある。県議会も今月、外来生物の混入を防ぐ目的で、埋め立てに使う土砂について島外からの搬入を規制する条例を成立させた。むろん狙いは辺野古沖埋め立ての阻止である。

 政府はこれ以上、沖縄を追い込んではなるまい。ここはいったん作業を止め、県との協議を仕切り直すテーブルに着くべきではないか。対話を通じ、合意点を見いだすのが政治本来の役割のはずだ。法廷に持ち込む前に手を尽くしたい。

 そこで何より忘れてはならないことは、地元沖縄の民意を最大限に尊重する姿勢である。

 思い起こしたいのは前知事がおととし12月、県外移設の公約を覆して埋め立て申請を承認した経緯である。環境保全についても「懸念は払拭(ふっしょく)できない」と直前まで説明していた。

 民意を裏切った前県政と移設計画に固執する安倍政権に県民の怒りが渦巻いた。前知事が大差で落選した知事選をはじめ、沖縄のさまざまな選挙で示された移設反対の声こそが、翁長知事の後ろ盾にほかならない。

 募る一方の県民の怒りを全く無視したまま、政府の立場を押し付けるだけでは仕切り直しも難しくなる。対話のタイミングを逃した先には泥沼が待っているだけである。

(2015年7月18日朝刊掲載)

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