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社説・コラム

『潮流』 ウインズ・オブ・ゴッド

■論説委員・田原直樹

 熱い役者だった。今井雅之さんは15年前に1度、インタビューしただけだが、印象に強く残っている。鋭い眼光で作品に込めた思いや、上演する意義を語っていた。

 「THE WINDS OF GOD(ザ・ウインズ・オブ・ゴッド)」。作、演出を手掛け、自ら主演した。

 若い漫才コンビが1945年8月にタイムスリップし、神風特攻隊員だった前世の姿に戻る物語。「お国のため」と疑わない他の隊員と衝突しながらも絆を結ぶが、やがて2人にも出撃の日が来る―。

 88年から上演し、国内はもとより米国でも高く評価される。国連での舞台は各国代表から喝采を浴びた。

 取材後、被爆地で初めて上演するという舞台を見た。終演後、目を真っ赤にした今井さんが語りだした。「特攻隊モノを広島で演じるのをこれまで恐れ、避けてきた。でも今日…」。感極まり声を詰まらす役者を、やはり目を腫らした観客が拍手で包んだ。

 元自衛官である。「右翼」「好戦的だ」と、ときに誤解も受けた。だが特攻を美化した作品ではない。生き残った隊員100人余りに聞き取りをして練り上げた。悩みつつ散っていく若者の姿から、生きる意味を問いかける。

 それでも広島では被爆者を傷つけないか、受け止められるか。長く悩んだのだろう。

 真っすぐで思慮深い人だった。戦後50年の節目に出した著書「特攻隊と戦後の僕ら」(岩波書店)に詰まった思いの丈を読み返した。

 「絶対に戦わない」という意志を―。ばかなリーダーをもう選び出さないこと―。

 戦争や原爆への怒り、選挙しか頭にない政治家に対する憤り、若者へのメッセージなどに熱血漢ぶりが見える。

 東京でお別れの会があったのと同じ日、安保法案が衆院を通過した。また若者を戦争に送る気か―。雲の上で熱くなっているのではないか。

(2015年7月18日朝刊掲載)

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