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社説・コラム

どう見る安保関連法案 NGO「難民を助ける会」・長有紀枝理事長 中立性こそ日本の資産 

 安全保障関連法案のこれまでの国会審議を見ると、なぜ10本もの法案が1本にまとめて出されたのか疑問だ。個別に一つ一つ丁寧に議論を積み上げていくべきものが、パッケージにされている。そもそも国の「自衛」の在り方と、国連平和維持活動(PKO)などの「国際協力」は別々に語られるべき問題だ。

米は紛争当事者

 紛争地域の難民支援や地雷廃絶の活動を続けるNGO(非政府組織)「難民を助ける会」の理事長を2008年から務める。外資企業で働いていた1990年に同会の活動に参加したのがきっかけ。同会は旧ユーゴスラビアや中東で、実績を積み重ねている。

 国防の手段として、集団的自衛権を行使できるようにしようという発想は分かる。ただ、行使を想定する相手は主に米国になるはずだ。米国はさまざまな国際紛争に介入しており、紛争当事者となることが多い。自衛隊が米軍の同盟軍のような位置付けになると、中立性という日本の「ブランド資産」が失われる。

 人道支援をする日本のNGOにとって、中立で不偏不党な存在として認識されることは重要だ。敵味方の区別なく全ての人を援助する組織だからだ。「米国と行動を共にする日本」のNGOとみられることを危惧する。米国を敵とみなす武装勢力がいる地域での活動は、リスクが高まるだろう。私たちが活動できる範囲が狭まりかねない。

言い訳に使うな

 安保関連法案は、自衛隊がPKOなどで武器を使う基準を緩和する内容も含む。政府は、NGOや他国軍部隊の関係者が武装集団に襲われた場合、自衛隊が駆け付けた上で、武器を使用して助ける「駆け付け警護」などを想定している。

 PKOの中で日本が役割を果たすことは反対しない。だが、駆け付け警護という形で、NGOが武器使用拡大の言い訳に使われることに違和感がある。PKOの一環で自衛隊が動く場合、「米軍と一緒に動く軍隊が来た」と認識されるなら、私たちは一線を画して活動しないといけない。

 今回の法整備で、近隣諸国との関係では安全性が高まるかもしれないが、世界的な範囲で考えれば危険性が高まるリスクもある。日本の政府開発援助(ODA)の在り方を定めた開発協力大綱には「非軍事的協力によって、世界の平和と繁栄に貢献してきた我が国」とある。非軍事の分野で紛争予防に貢献する国際協力こそが、日本の安全保障の根幹にあると思う。(中島大)

(2015年7月18日朝刊掲載)

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