×

社説・コラム

天風録 「北の大地で」

 札幌には、もう一つの「原爆ドーム」がある。広島の本物に残る屋根の鉄骨を模し、帽子のように据えたノーモア・ヒバクシャ会館。訪ねたのは完成から程ない20年余り前だ。北の大地も核廃絶を叫んでいるようで心強かった▲館を営む北海道被爆者協会の中心は、広島から復員した元兵士と聞いた。「暁部隊」とも呼ばれた陸軍船舶司令部の諸部隊から救援に向かい、地獄絵を見た男たち。古里で仲間を掘り起こし、記憶を語り継いだのだと▲草分けの一人の苦労話は忘れがたい。埋もれた元兵士を探し当て、手帳を取ろうよと説き伏せる。強い偏見ゆえに「ほっといてくれ」と時に追い返された、とも。厳しさを乗り越え、被爆者運動として実を結んできた▲北海道に限るまい。平和への情熱を力に、全国各地で同様の営みが根付いた。だが被爆70年のいま、危機を迎えている。本紙の被爆者団体アンケートによれば、寄る年波で先が見えないと嘆きが目立つのは気掛かりだ▲かの館の中には変形した瓶などの被爆資料も並ぶ。被爆地から遠く離れた子どもたちが学べる貴重な場でもある。核をなくせ。心からの叫びを埋もらせないよう、北から南まで力を合わせたい。

(2015年7月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ