×

社説・コラム

社説 内閣支持率急落 なぜ耳をふさぎ続ける

 安定した支持率を背景に突っ走ってきた安倍政権に、国民が待ったをかけたと受け取るべきだろう。共同通信の世論調査で、内閣支持率が37・7%へと大きく落ち込んだ。

 前回調査の6月に比べると、9・7ポイントも下がった。2012年12月に第2次安倍政権が発足して以降、最低の数字である。不支持率は51・6%と過半数に達し、第2次政権では初めて支持と不支持が逆転した。

 この変化の背景は言うまでもなく、安全保障関連法案を抜きに考えられまい。

 衆院本会議で多くの野党が退席や欠席をする中、安保法案を採決したことに関して、「よくなかった」との回答は73・3%を占めている。安保法案を今国会中に成立させるという与党の方針についても、「反対」が68・2%に上った。

 不支持の理由は前回同様、「首相が信頼できない」がトップだが、比率の増加も見逃せない。法案審議で浮き彫りとなった政権の強引な政治手法への不信感の高まりにほかなるまい。

 このまま方向転換せず、突き進むつもりだろうか。

 安保法制の議論を主導してきた自民党の高村正彦副総裁はきのう、テレビの討論番組で「支持率を犠牲にしてでも、国民の平和と安全を守るために必要なことをやってきたのが自民党の誇るべき歴史だ」と強調した。

 正しい道を進んでいる限り、国民は後からついてくる―。多少の反発はやむなしと考えているとしたら、もはや民主主義の政治とは言い難い。

 強引な姿勢は、20年東京五輪のメーンスタジアム、新国立競技場をめぐる一連の経過からも浮き彫りだった。

 総工費が当初予定を大幅に超えそうなことは約1年半も前に表面化し、批判が相次いでいた。それでも異論に耳を貸さず、責任の所在をあいまいにして問題を放置してきた。計画の見直し方針が伝えられても、支持率の急落を食い止めきれなかったのは当然ともいえる。

 安倍晋三首相は、民意が離れてしまっては政策が遂行できないという第1次政権の失敗が身に染みていたのではなかったか。これまではアベノミクスの旗を振り、支持を引き寄せてきた。しかし今回「国民の理解が進んでいない」と認めながら、法案を引っ込めない民意軽視を国民が危ぶんでいるに違いない。

 世論調査は、その時々の「世間の空気」を表しているだけで「公的な意見」とはいえないとの見方もあろう。質問の仕方によって数字も変わる。しかし、一種の国民投票のような意味合いもあり、民意をつかむ手掛かりであるのは間違いない。

 今、危機感を持つべきであるのは国会議員たちだろう。今回の世論調査が示しているのは、先走る政権と、それに危機感を抱いて立ち止まる国民との「距離」である。いくら首相が米議会で安保法案の夏までの成立を確約したからといって、国民の声に耳をふさぎ、無視することは許されまい。

 安保法案の論戦は参院に移るが、与党が多数を占めることには変わりがない。私たち有権者は異論や疑問があるなら、地元選挙区の議員にその声を届けるのも一つの方法だろう。政権と国民とのずれを縮める責任は、私たちの側にもある。

(2015年7月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ