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反戦の思い 若者と共有 映画「野火」の塚本監督 広島市中区

 第2次世界大戦末期のフィリピン戦線で生死の境をさまよう日本兵を描いた映画「野火」の塚本晋也監督(55)が、八丁座映画図書館(広島市中区)で作品を見た市内の若者と意見交換した。激しい戦闘や人間の極限状態を忠実に表現。「近未来に起きてはいけない」との反戦の思いを伝えた。

 中国新聞ジュニアライターを含む中学2年~大学1年の9人と約1時間、製作の目的や感想を話し合った。原作は、高校時代に読んだ大岡昇平の同名小説。以来、映画化する計画を温めてきた。戦争経験者が80歳を過ぎた10年前、強い焦りを感じて着手。「戦争の痛みが忘れ去られようとしている。戦争が近づく危機感を覚えた」

 特定秘密保護法の成立や集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案など「戦争をする方向へ日本は変わっている」と指摘。「戦争を次世代に引き継がせたくなかった。若い人にもし自分が戦場に行くとこうなるというイメージを持ってほしい」と訴えた。

 若者から「こだわりのシーンは」「空がよく映っていた理由は」と質問を受けると、「ずっと作りたかった映画なので全編がこだわり」「力強くきれいな自然の下で人間が愚かな戦いをする対比を描きたかった」と答えた。「あまりに衝撃的で人間が人間じゃないように見えた」「エンドロールが終わると、平和な今とのギャップを感じた」「普通にご飯が食べられるありがたさが分かった」との感想に耳を傾けていた。

 意見交換会は、25日から上映するサロンシネマ(中区)運営会社の序破急が、「若者に見てほしい」との監督側の要請を受け実現。塚本監督は「内容が恐ろしすぎないか心配だったが、自分の思いは伝わったと思う」。参加したジュニアライターの高校2年岩田壮さん(16)は「人の体が吹き飛ぶシーンは見てつらかったが、戦争の恐ろしさを実感した。戦争に向かうのを止める使命感を持った」と話していた。(山本祐司)

(2015年7月20日朝刊掲載)

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