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社説・コラム

社説 伊方原発「適合」決定 住民の安全 置き去りか

 四国電力が再稼働を目指している伊方原発3号機(愛媛県伊方町)が、原子力規制委員会の審査に「適合」した。中村時広知事は「国から正式な再稼働の要請を受けた。これから県内で議論する」と述べている。

 だが、再稼働への同意取り付けを急いではならない。原発の重大事故に伴う住民の避難計画は依然、実効性が疑問視されている。地元伊方町だけでなく、原発から半径30キロ圏の住民の声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。

 伊方原発は日本の原発の中でも特異な立地条件にあろう。瀬戸内海の南西端に突き出た佐田岬半島の付け根に位置し、その先は長さ約40キロ、幅は最も狭い所だと約800メートルしかない。

 そこには約5千人が住んでおり、事故の際、原発と反対方向に逃げようとしても海に突き当たる。想定によると、船やヘリコプターで対岸の大分県などに避難することになるが、津波や悪天候に見舞われた場合、それもかなわない現実がある。

 共同通信が周辺自治体にアンケートを実施したところ、原発事故と地震や津波が同時に起きて道路や港が使えなくなる「複合災害」を特に不安視していることが分かった。住民の避難先となる県内外の自治体では、受け入れ態勢の整備が進まない現状も判明している。

 「適合」したといっても、住民の安全にとって最も重要な避難計画は審査の対象から外された。規制委の田中俊一委員長が「求めてきたレベルの安全性を確認した。ゼロリスクや絶対安全がないことは理解してほしい」といみじくも述べている通り、住民にとっては「絶対安全」ではないはずである。

 もう一つの気掛かりは敷地北側を走る「中央構造線断層帯」のリスクだ。審査では耐震設計で目安となる地震の揺れ(基準地震動)を当初の570ガルから最大650ガルに引き上げた。愛媛県は独自に千ガルの目安を求めているが、仮にこの目安を満たしても完璧とはいえまい。

 また基準地震動の引き上げに伴い、事故対応拠点が入る免震棟の耐震性が足りなくなって、四電は1号機の近くに緊急時対策所を新設した。しかし、1号機が再稼働への審査を申請していないとはいえ、安全性に問題はないのか。疑問は残る。

 安倍政権は電力コストを抑えて産業競争力を強化するため、「原発回帰」を強めている。成長戦略の重要な柱とも見なしていよう。先ごろ九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の1号機に核燃料が装填され、再稼働は目前に迫ってきた。

 また自民党の原発推進派議員らは、原則40年の原発運転期間の見直しを求めている。規制委の審査が思うように進まないことにいらだったのか、党内から「規制委の組織理念にも効率性を盛り込むべきだ」などという意見まで飛び出している。

 東京電力福島第1原発の事故の教訓を忘れてしまったのか。この夏の電力需給見通しは、電力各社とも原発なしで安定供給が可能な状況だ。再稼働させれば「核のごみ」が再び増えるが、各原発に貯蔵されているものを含め、その行き場の問題はいまだに解決していない。

 伊方原発3号機の「適合」は地域や住民にとっては再稼働を意味しない。原発回帰こそ流れにそむいている。

(2015年7月20日朝刊掲載)

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