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11年間の証言 終着 元運転士 83歳藤井さん

 広島市内で路面電車を運転していた17歳の時に被爆した福山市蔵王町の藤井照子さん(83)が5日、中区で最後の証言活動をした。体力が衰えるまで11年間、修学旅行生などに被爆の惨状を伝えてきた。「体験を聞いた若い世代が心を継いでくれるはず」と信じる。

 当時、広島電鉄では運転士が兵役にとられたため、同社が運営していた家政女学校の生徒を臨時で運転士に充てた。同校3年生だった藤井さんはあの日、広島駅前の電停にいた。運転席に座り出発しようとした瞬間、閃光(せんこう)が走った。車外へ出ると家や旅館は吹き飛ばされ、多くの人が傷だらけでさまよっていた。

 終戦後、実家の広島県神石高原町に戻り19歳で結婚。5人の子どもに恵まれたが、50代になると喉に違和感を覚え、声が出なくなった。甲状腺機能低下症と診断された。

 投薬治療で声は出るようになった。生かされた命を証言活動に使おうと決意。2000年から修学旅行生や広島市内の小学生に体験を語ってきた。その数は千人を超える。

 5日は中区の広島平和会館で長野県と京都府の中学生16人に涙ながらに証言した。「平和とは心と心の触れ合い。感謝の気持ちを忘れず生きて」。いつものように結んだ。そして中区の広島電鉄の車庫を訪ね、今も現役で走る被爆電車651号を懐かしんだ。(胡子洋)

(2011年8月6日朝刊掲載)

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