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連載・特集

『生きて』 児童文学作家 那須正幹さん(1942年~) <5> 昆虫採集

趣味高じ大学でも専攻

 小学校時代、大ファンじゃった手塚治虫が少年時代に昆虫採集をしよったと聞いて、僕も始めた。小学6年生のころじゃったかな。それと、夏休みになると近所の家に、一つ年上の昆虫マニアの少年が、東京から遊びに来よった。標本の作り方やらを教えてくれて。彼は、ハチを集めよった。同じではしょうがないから、僕はカブトムシとかカミキリムシの仲間を集めることに。中学生になっても、こつこつ続けよったね。

 1958年、基町高(広島市中区)に進学して生物部に入る
 中学校の生物の先生から、基町高校の生物部がすごく活発だと聞いて志望した。入学式の次の日には、入部届を出したよ。部活動とは別に、網を持って二葉山(東区)に行ったりしよったね。高校を卒業するまでに500種類ぐらい集めたな。

 採集マニアは、やっぱり新種を見つけたいわけよ。高校生の時かな、1ミリに満たないコガネムシを見つけた。こりゃ新種じゃ思うて、京都の大学の先生に、名前を調べてほしいと送った。何日か後、「セマルケシマグソコガネ」いう名前と、「頼むときは、同じ物を2頭(匹)以上入れて、1頭はプレゼントするのが礼儀です」と書かれたのが届いたね。

 同じころ、一つの物語を書いた。ある朝、主人公が目覚めると、自分がテントウムシになっとるという話。カフカの「変身」は当時はまだ読んでなかったから、昆虫が好きでそんな話にしたんかもしれんね。

 さらに虫の世界へと、県立島根農科大(現島根大生物資源科学部)に入り、森林昆虫学を専攻した
 趣味の昆虫採集は楽しいけれど、勉強になると面白くないんだよねえ。卒論のテーマは、松の芯を食べるマツノシンクイムシと呼ばれるガを、天敵を利用してどう防ぐか―。

 そのためにガの幼虫を育てて、さらに天敵の寄生バチが羽化するのを待つ。辛気くさいよね。そのデータを取ってグラフにする。もう、だんだん、昆虫に興味がなくなって。

 大学では、虫を捕るのにええかなと山岳部に入った。最初は網を持って行ったけど、2年生のころからは採集はやめて山ばかり。それが、思わぬ形で就職につながったんよね。

(2015年7月21日朝刊掲載)

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