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社説・コラム

『美術散歩』 被爆の記憶 布に織り込む

竹田信平個展「MEMORIA(L)/メモリア(る)」 26日まで。広島市中区上八丁堀4の1、ギャラリーG

 竹田信平さんはメキシコを拠点に活動するアーティスト。ここ10年、南米や北米に住む被爆者を訪ね歩き、語りを収録した映画や文章も発表してきた。広島での初個展は、歴史や記憶をめぐる思索の結晶ともいえる内容だ。

 メキシコ南部の歴史的都市、オアハカ近郊に伝わる毛織りの技を使った作品。白黒の縦糸だけの大布が中空に浮かび、たくさんの赤い糸が周囲へ伸びる。縦糸は時間の流れ、歴史を強く示唆する。大布に食い込む赤い糸は、歴史に血を通わせる個々人の生を象徴するようだ。

 被爆者の語りの声紋をグラフ化し、布に模様として織り込んだ小品も出展している。やはりオアハカの毛織り技法で作った。

 映画や文章とは違い、一瞬の視覚で向き合える、いわば歴史のタペストリー。その中に圧縮保存された個々の記憶を、見る者一人一人がひもとくよう促すようでもある。個展のタイトルには、記念碑と訳される名詞「メモリアル」を動詞化する意味を込めた、という。

 1978年大阪市生まれ。25日に広島県立美術館(広島市中区)で開幕する「戦争と平和展」にも出展するほか、自作の映画「ヒロシマ・ナガサキ ダウンロード」が8月1~7日、横川シネマ(西区)で上映される。(道面雅量)

(2015年7月24日朝刊掲載)

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