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社説・コラム

『この人』 「ヒロシマ・アピールズ」ポスターを制作したグラフィックデザイナー 佐藤卓さん 

悩みつつ「重み」と向き合う

 誰もが手に取るようなガムや牛乳の商品パッケージを得意としてきた。デザイナー人生で最も悩んだ作品とし、浮かんでは消えた構想は「数百」という。被爆70年。人間の理屈をすべて押さえ込みそうな、ずしりとした分銅が「戦争は絶対悪」とのメッセージを世界へ発する。「ヒロシマの重石(おもし)」のタイトルが効いている。

 東京で生まれ育ち、戦争も原爆も知らない。1月に制作を打診された際は戸惑いつつも「これから戦後世代が向き合わないと」と、引き受けた。しかし、責任の重さから方向性が定まらなかった。原爆資料館(広島市中区)で犠牲者の黒焦げの弁当箱などの遺品を見ると、さらに迷った。「現物の持つメッセージを超えられないのでは」。完成までの半年のうち4カ月半は構想に割いた。行き着いたのは、原爆被害に向き合うほどに痛感したヒロシマの「重み」を昇華させることだった。

 「HIROSHIMA」の文字を刻んだ写真の分銅は特注。訴求力を追求した結果だ。くすみが特徴のスズの合金で重い雰囲気を醸し出すなど素材にもこだわった。一方、その分銅に止まる白いモンシロチョウには希望も託す。交流があった故亀倉雄策さんが「ヒロシマ・アピールズ」の第1回作品に描いた「燃え落ちる蝶」の生まれ変わり。未来へはばたき、被爆の記憶と平和への願いを継ぐ若い世代を象徴した。

 信条とする「なじみやすくも深みのあるデザイン」は今回も貫いている。「少しでも立ち止まって見てもらえたら」。30年以上続けるサーフィンが休日の息抜き。東京都目黒区に暮らす。(樋口浩二)

(2015年7月29日朝刊掲載)

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