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社説・コラム

社説 「厚木」高裁判決 あすの岩国への警鐘だ

 基地騒音をめぐる司法判断の中でも画期的な意味を持つ。神奈川県の米海軍厚木基地の周辺住民6900人余りが、騒音被害の賠償を国に求めた第4次厚木訴訟で、きのう東京高裁の判決が下された。

 共同使用する自衛隊機の早朝・夜間の飛行差し止めを昨年の地裁判決に続いて求めたばかりか、過去の基地訴訟で認められることのなかった将来分の損害賠償を国に命じたのが大きなポイントだ。「今後も高度の蓋然(がいぜん)性を持って騒音被害の継続が見込まれる」との理由である。賠償総額は一審以降の騒音分も加えて約24億円も上積まれた。

 厚木基地における主たる騒音原因は空母艦載機部隊の訓練によるのは明らかだ。

 長きにわたる一連の訴訟の確定判決で、司法は繰り返し賠償を認めるとともに国の責任を厳しく指摘してきた。しかし国は米軍に対して腰が引け、防音工事など対症療法的な対策はするものの、日米安保条約や地位協定を理由に艦載機などの運用に口を挟むことはまずなかった。

 一審より大きく踏み込んだ高裁判決は、こうした怠慢に対する怒りの表れであろう。

 そもそも国家賠償とは、不法行為があった場合に国民に対して行うものである。将来分の被害をあらかじめ認定し、先払いすることなど本来、あってはならないはずだ。基地だから何でも許される、という政府の安易な姿勢に最大級の警鐘を鳴らした格好にもなろう。

 判決のもう一つのポイントである飛行差し止め命令からも、国への不信が感じられる。

 自衛隊機について、やむを得ない場合に夜間飛行を認めるとしたのは一審と同じだ。しかし高裁では、その基準は大臣による主観的な判断ではだめだと念押しした。災害や領空侵犯への対応など客観的な理由が必要だ、と。厚木に限らず、全国の基地で「やむを得ない」を口実に、地元との飛行制限の約束がないがしろにされがちな現状への批判とも受け取れよう。

 ただ一方で米軍機の飛行差し止めに至らなかったのは物足りないとの受け止めも地元に当然あろう。高裁としては米軍の運用には日本の主権は及ばないとする前からの判断を踏襲したようだ。とはいえ日米政府はこの判決が厚木基地の性格上、米軍機による被害にも向けられていることを肝に銘じるべきだ。

 国は上告を検討しているが、その前にやることがある。米軍に訓練の大幅な抑制、少なくとも早朝と深夜の飛行の全面中止をすぐに求めてもらいたい。

 むろん私たちにとってもひとごとではない。将来の賠償と、飛行の差し止め。ともに2016年末が期限である。17年をめどに、厚木の艦載機部隊が岩国基地に移転する予定であることを踏まえたからだ。つまり厚木において国家賠償の対象とした艦載機の騒音を「たらい回し」することが、判決の前提になっていることになる。

 国にとって厚木問題の解決策が岩国への艦載機移転であり、人口密集地に囲まれた基地の周辺の人たちが、それによる負担軽減に期待するのは分かる。しかし被害人口は厚木より少ないものの、基地騒音の苦しみが岩国で続くことを忘れてはならない。東京高裁判決を、あすの岩国への警鐘ともすべきだ。

(2015年7月31日朝刊掲載)

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